コッペリア

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 置棚は半分ほど壁の中に入り込み、後ろから人が一人通れるくらいの穴が現れた。穴の奥には通路が見える。  「なにこれ」  「やんごとなき家にありがちな隠し通路ってやつだ。今じゃ存在も忘れられてるみたいだがな」  隠し通路を覗くと照明器具などはなく、片側の壁の高い位置に採光用らしい小さな窓が点々とあるだけだった。窓から入る光は、とても少なく薄暗い。通路の幅は白い階段と同じくらいだったが、ゴツゴツとした石造りの壁のせいか圧迫感がある。  「ここを通るの?」  「嫌なら置いていくぜ」  「待ってよ、行くよ」  隠し通路はほこりっぽく、気温が低くてじめじめしている。おまけに不気味なほど音が響いて、まるで幽霊屋敷をさ迷っているような嫌な感じがした。  しかし前を歩くコッペリアは、ピクニックをしているかのように上機嫌で、鼻歌を歌いながらずんずん進んでいく。幽霊みたいな存在だから、幽霊が出そうな場所が好きなのだろうか。  しばらく歩くと、サイロの中のような巨大な円形の吹き抜けが現れた。上は四、五階分はありそうな高さで、鉄製のらせん階段が貫いている。小さな窓と天窓から降り注ぐ光で最低限の明るさはあり、階段は危なげなく上れそうだった。  ただ、この吹き抜けとらせん階段は上だけではなく、下にものびていた。下は立坑と言った方がいいような雰囲気だった。地下に潜ってしまうため窓はなく、暗くて何も見えない。  かすかに下から風が吹いてきて、カビ臭いにおいが鼻をかすめる。耳をすませると、ゴォォという何だかよく分からない低い音が聞こえる。  一体どれだけ深いのかも見当つかない。  「気になるなら、下に下りて冒険してみるか?」  僕は、力いっぱい首を横に振った。  コッペリアは少し残念そうな顔をしながら、らせん階段を上り始めた。一段上るたびにカン、カンと足音が響く。コッペリアが立てるこの音も、他の人には聞こえないのだろうか。  一つ上の階に上ると、開けた空間があった。奥の壁には扉と、細い光の線が数本あった。近づいてよく見ると、光の線は壁の向こう側がのぞける穴だった。  「見えるその部屋から出れば、お前の部屋の直ぐ近くの廊下だぜ」
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