小さな同居人

2/27
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
 「お見苦しいところをお見せしてしまいました」  メイドはまだ混乱しているらしく、しどろもどろになりながらも何があったのかを話し始めた。  彼女の話によると、洗濯物をカゴに入れて集めていたら、突然洗濯物の中から何かが飛び出してきたそうだ。ソレはネズミにしては大きく猫よりは少し小さい動物で、タオルをかぶったまま廊下を走り去っていったので姿は見えず、何なのかは分からないと言う。  「獣ですか」  ダニエルさんが自分のあごに手をあてる。ダニエルさんは考えごとをするとき、あごを触る癖があるようだった。  集まってきた人たちもあれこれ話だし、辺りはざわめきだした。話に混ざれもしないけれどそのまま立ち去るのも気まずく、僕はみんなの様子をうかがっていた。  話では、他にもなくなっているものがあるだとか、誰もいないのに物音がしたなど、最近おかしなことが頻発していたらしい。全てではないのかもしれないけど、今回現れた獣が宮殿中で悪さをしているのかもしれない。  獣か、と僕は思ったけれど、よくよく考えてみると獣は実物を見たことがない。鳥はよく窓から見れたけれど、獣は本や廊下に飾られた絵などでしか知らない。ネズミより大きくて、猫より小さい。ネズミは手のひらに乗るくらいで、猫はひざに乗るくらいだっただろうか。その間の大きさの獣、部屋の絨毯みたいにフカフカしているのだろうか。謎の獣に少し興味が湧いてきた。  騒ぎに気づいたのか、ベルトさんもやって来た。一通りの事情を聞いた後、そこにいたメイドたちに仕事に戻るよう言う。ダニエルさんも、他の使用人たちを仕事に戻らせる。残ったのは僕と、ダニエルさんとベルトさん。それに洗濯物を片づけるメイドが二人ほどだった。  ふと、僕の頭にあるアイディアが浮かんだ。僕は、メイドたちが去っていくのを見届けていたベルトさんに近づき、訊いてみた。  「僕がその獣を探してもいいですか?」  ベルトさんは、とても驚いた顔をしていた。  「フランツ様が、ですか?」  「間取りを覚えるついでにと思ったのですが、ダメですか?」  少し甘えるように言ってみた。僕のお願いは、いつもすんなりと聞いてもらえるからだ。みんな僕に甘い。僕の位が高いからというだけではなく、腫れ物に触るように、甘いのだ。  こんなことを平然とできるようになったのは、きっとコッペリアのせいだ。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!