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「お見苦しいところをお見せしてしまいました」
メイドはまだ混乱しているらしく、しどろもどろになりながらも何があったのかを話し始めた。
彼女の話によると、洗濯物をカゴに入れて集めていたら、突然洗濯物の中から何かが飛び出してきたそうだ。ソレはネズミにしては大きく猫よりは少し小さい動物で、タオルをかぶったまま廊下を走り去っていったので姿は見えず、何なのかは分からないと言う。
「獣ですか」
ダニエルさんが自分のあごに手をあてる。ダニエルさんは考えごとをするとき、あごを触る癖があるようだった。
集まってきた人たちもあれこれ話だし、辺りはざわめきだした。話に混ざれもしないけれどそのまま立ち去るのも気まずく、僕はみんなの様子をうかがっていた。
話では、他にもなくなっているものがあるだとか、誰もいないのに物音がしたなど、最近おかしなことが頻発していたらしい。全てではないのかもしれないけど、今回現れた獣が宮殿中で悪さをしているのかもしれない。
獣か、と僕は思ったけれど、よくよく考えてみると獣は実物を見たことがない。鳥はよく窓から見れたけれど、獣は本や廊下に飾られた絵などでしか知らない。ネズミより大きくて、猫より小さい。ネズミは手のひらに乗るくらいで、猫はひざに乗るくらいだっただろうか。その間の大きさの獣、部屋の絨毯みたいにフカフカしているのだろうか。謎の獣に少し興味が湧いてきた。
騒ぎに気づいたのか、ベルトさんもやって来た。一通りの事情を聞いた後、そこにいたメイドたちに仕事に戻るよう言う。ダニエルさんも、他の使用人たちを仕事に戻らせる。残ったのは僕と、ダニエルさんとベルトさん。それに洗濯物を片づけるメイドが二人ほどだった。
ふと、僕の頭にあるアイディアが浮かんだ。僕は、メイドたちが去っていくのを見届けていたベルトさんに近づき、訊いてみた。
「僕がその獣を探してもいいですか?」
ベルトさんは、とても驚いた顔をしていた。
「フランツ様が、ですか?」
「間取りを覚えるついでにと思ったのですが、ダメですか?」
少し甘えるように言ってみた。僕のお願いは、いつもすんなりと聞いてもらえるからだ。みんな僕に甘い。僕の位が高いからというだけではなく、腫れ物に触るように、甘いのだ。
こんなことを平然とできるようになったのは、きっとコッペリアのせいだ。
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