僕のはじまり

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 「遠慮しなくてもいいのだぞ。言ってみなさい」  父に促され、僕はずっと不思議に思っていたことを訊いた。  「お母さんはいないのですか」  父や兄は見舞いに来てくれたが母は一度も来ず、いまだに会っていない。それどころか話題に上ることすらなかった。誰も母のことを何も言わない。それがどういう意味なのか意味なんかあるのかどうかも、今の僕には理解できなかった。  僕が言った後、みんながしんと黙ってしまった。血の気が引いて、眠気がどこかへ吹き飛んでいった。しまった、訊いてはいけないことだったんだ。どうしよう、どう言い訳しよう。焦って言葉が出てこない。早く、早くなかったことにしなければ。  「そうだったな、フランツにはまだ話していなかったな。不安にさせてすまなかった」  父が言った。怒っては、いなかった。  「お母さんはな、病気でな……」  「病気? もしかして、はやり病なの?」  「え、あぁ……病気がはやっているのを知っていたのか」  ベルトさんから少しだけ聞いた話だ。国の中で急速にある病気が増えていると。その病気はまだ原因が分からず伝染病かも知れないから、まだ体の弱っている僕は外に出ても外部の人と接触してもいけないと説明されていた。  「大丈夫なの? 病気治るの?」  はやり病がどういう病気なのかまでは詳しく聞いていなかった。でもとても危険な病気だということは、ベルトさんの話し方で何となく分かっていた。  「あぁ……」  父はそう言うとまた黙ってしまった。僕の言葉への肯定だったのか、ただの相づちだったのか判断できない。そんなに具合が悪いのだろうか。  「いや、大丈夫だ。国で一番の医者を付けている。だが、今は会わせる訳にはいかないのだ。許しておくれ」
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