小さな同居人

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小さな同居人

 専属の教師が、しばらくの間仕事を休むことになった。家族がはやり病になったらしい。その話を聞いた時、僕はさりげなくはやり病がどんな病気なのか聞いてみたけれど、はぐらかされてしまった。  何で教えてくれないの! と叫びたくなるのをこらえて「教えてくれてありがとう」と嘘の微笑みを浮かべながら返した。自分がどんどん悪い人間になっていきそうな気がして怖かったが、素直に周りに流されて後で取り返しのつかないことになるのも嫌だった。  僕は空いた時間に、図書室に収められている蔵書を確認することにした。蔵書は真新しい物から、触っただけで崩壊してしまいそうな古い物まであった。少なくとも、僕をだますためにあわてて作って並べたものではなさそうだ。  この国について書かれた本をいくつか選んで、読み比べてみる。多少の違いはあっても、どれも同じようなことが書かれていた。  この国は四つの大国の隙間に挟まるようにあって、地図で見るととても小さかった。農作物には恵まれず、大昔の国民は生きるだけで精いっぱいだったけど、宝石や金属の鉱山が発見され国は急成長したそうだ。今では優秀な職人が作るジュエリーを商人たちが隣の大国に高値で売り、大国に引けを取らない財力を持つほどになったらしい。  隣国は宗教国と帝国、そしていつまでもいがみ合っている二つの王国だ。そういえば、大国から研究者が来たと言っていたけれど、どの国から来たのだろう。やっぱり、あの怪物みたいな人がそうなのだろうか。そもそも何の研究者なのだろう。  図書室での調べ物を終えると、宮殿の探索を再開した。また迷子になってしまわないように、ベルトさんから貰った宮殿の見取り図にメモを書き込みながら進む。行く先々で、使用人たちから何をしているのか訊かれたけれど「前に少し迷ったので、もう迷わないように間取りを覚えている」と答えた。嘘は言っていない。  一階の廊下で、飾られていた大きな馬の絵を見取り図に書き込んだ。飾られている芸術作品たちは目印になるので、とても助かる。  書き終わり、再び歩き出そうとした時「きゃあ」と短い、女性の悲鳴が聞こえた。驚いて悲鳴のした方へ向かうと、半開きの扉の前でメイドが一人座り込んでいた。彼女は呆然とした顔で廊下の先を見ていて、辺りには洗濯物が散らかっている。  「大丈夫ですか?」  声をかけると、メイドははっと我に返り、慌てて身なりを整えた。そうこうするうちに、僕と同じように悲鳴を聞いてきたらしい人々が集まってきた。その中に、前に車椅子を押してくれていた執事のダニエルさんもいた。
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