01―発端

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01―発端

 サタンが魂だけになり彷徨い始めて何年もの月日が経った。  その間の下界、――人間界では技術の向上、発展が著しく、新たな時代が幕を開けていた。  その中のとある島国。そこでは子供に関する問題が多く取り上げられていた。政府は深く悩み、この問題の打開策を考案せざるを得なかった。しかし問題が解決することは無く、幾年も経ってしまったある日のこと、睨み合いを続けていた二国がついに冷戦の終わりを告げた。島国を挟んでの冷戦であったため、いずれ挟まれて島が戦場になるのに時間の問題だった。そこで考案された物がある。  【魔法使い育成計画人間兵器の作成について。  報告。  ――年――次世界大戦。我々――国同盟は例に倣って武器、人手、金銭の確保を心掛けた。しかしこのままでは国民から反感を食らってしまう。このままではいけない。また負けてしまう。ならばこそ、科学兵器より害はなく、周りに殆ど被害を被る事無く戦争をするしか方法はない。今まで秘密裏に動いていたあれを開始する時が来た。  “魔法使い育成計画”の実行にうつる。孤児、育児放棄された子供たちの問題を解決する術にもなり得るだろう。未成年を保護施設から、街から、我々政府が連れ出し、育成する。ストレスなく育て上げ、魔法使いに成長させる。  神に近づいた者こそ最強である。  全てはこの戦争に勝つために。  ――報告は以上である。】  液晶画面に映し出された報告書は、そう綴られていた。そして違う画面を開き、つらつらと文字を打っていく。  【 拝啓。  心地良い六月が過ぎようとしています。冷夏を如何お過ごしでしょうか。私は頗る健康に過ごしています。  ところで、彼らの様子はどうでしょうか。元気にお過ごしですか。  施設は山奥を買い取り、そこに大きく立派な建物を建てました。新しい物なのでとても清潔的でしょう。きれいに、且つ存分に子供たちの育成のためにお使いください。  生身の人間を魔法使いにするための術を私たち政府は長年研究してきました。  そしてようやくできたのです。完成した一人目の子供が、「イザヤ」と言います。彼は神の預言者として活躍してくれることでしょう。しかし、彼は病弱で長く生きられません。そこで、今施設にいる優秀者の中から一人、預言者を見つけ出してください。  次の預言者は“彼”になります。  今後の活躍を心より期待しております。   敬具。】  そんな手紙が施設に届いた。  この島国は自然豊かで空気が澄んでいる場所が一部ある。一部と言うのは、最近発展途上国となってしまった為、廃棄物が多く、都会では住みづらくなってしまったからだ。しかし廃村し掛かった場所があり、そこは車も走らないような場所。発展した建物などほとんどない。ここがうってつけだと思ったのか、その隣接する山を政府直属のとある組織が買い取り、そこに施設を建てた。その施設は、「魔法使い孤児育成研究所」と呼ばれる。研究とは、実際錬金術などは古来から存在した物で、魔法使いなどは「魔女狩り」とも呼ばれるほどに抹殺されてきたような存在。しかしそこに目を付けた。いずれ訪れるであろうとされる世界大戦。何度目かの戦争により、負け組になってしまった我が国は、崩壊寸前だった。植民地こそならなかったものの既に金銭的問題も残されていて、国民からの批判が殺到している。このままでは埒が明かない。いっそ大博打に賭けるしかないと政府は思った。科学兵器を使えば国を滅ぼしかねない。ならばいっそ古来より伝わる魔術を蘇らせる事が出来れば、……そう考えた。  許された事では無かった。ある国の地域からすれば大問題だろう。魔女狩りがまた起こりかねない。しかし、そうもいっていられなかった。国が滅ぶよりはましだと。植民地にされれば国民はきっと奴隷にされる。政府は崩壊、国の経済も他の国の手によってうまく回される事だろう。自然豊かなこの島国は、資源も豊富だった。なので色々な国が目をつけていたのだ。元々仲の良かった国同士が同盟を組み、この計画を実行した。その同盟国でも又、孤児などの問題があった為、それの解決策の一つとして了承された。一番の理由が、戦争に勝つと言う事。戦争に勝てば、領地が手に入る。金銭問題もきっと解決する事だろう。  大金持ちの国を叩き、奪い、奪い、奪うのだ。略奪戦争と称しても良い。  しかしそう思っているのは我が国だけであり、実際は経済的問題で世界的に勃発した「喧嘩」であった。ずっと睨み合いだけの冷戦状態であった国同士がついに奮起し、戦争。それに挟まれてしまった我が国は助けを求めて同盟国と共に戦争へ、それが主軸となり、各国が立ち上がってしまった。――というのが予想されるという事態であり、まだ戦争は始まってはいない。しかし時間の問題だった。戦争の一歩手前まで来ている。早く解決策を練らなければこの国は戦場となり人間が沢山死ぬ。それは防がねばならない。  魔法使い孤児育成研究所は、広々とした庭園、建物が設けられてあり、学校のような場所。その建物と隣接した形で寮があり、研究所がある。寮に子供たちが住んでおり、身支度、清掃、洗濯、料理はすべて自らの手で行わせる。自立させるためだ。学校では、魔法の勉強、歴史、体力づくりの体育、聖書を読む時間がある。教会が近くに建てられ、毎時間、決まった時間に祈りを捧げに行くのだ。組織の一人がある宗教の信者の為、こうなった。  子供たちは「聖徒」と呼ばれ、聖なる子供、聖なる生徒と呼ばれている。子供たちの名前も神聖な名前に変え、皆兄弟であり、仲間であると教え込む。小さい頃からそう教育すれば身につくので、三歳から十五歳を対象に施設で生活させている。  手紙の主は政府の人間だった。一か月に一度、手紙が来る決まり。こちら側もそれに応じて返答の手紙を出す決まりがある。都会から離れた場所にある為、なかなか巡回には行けないから「手紙」と言う手段を取っているのだろう。この発展した時代において何故手紙なのかというのは簡単な話で、極秘である情報を外部に漏らさないためだからである。特殊な電波などを使ってもハッカーがいれば簡単に覗かれてしまう可能性が非常に高く、安全性は優れているにも拘らず、それに応じてハッカーの力もついているので関係無い。手紙なら読まれる事無く運ばれる可能性が高い。しかし、届くのに時間がかかってしまうので期間が設けられている。一週間の始めに手紙を出すというのが決まりで、それは政府側も施設側も同様だ。一週間の始めに送れば、おおよそ一週間の終わりくらいには届く。それに応じて一週間の始めに手紙を出せばまた一週間の終わりには届くだろうという話だ。そうして現状報告をしている。  戦争まで幾何も無い。それまでに、魔法使いを育て上げなければならない。  それがたとえ、重い罪だとしても。
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