03―傲慢な悪魔

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03―傲慢な悪魔

 「黒い魔法、ですか」  「はい」  「まさかノアが魔法を使えるようになって、しかも黒い魔法を、だなんて」  先生から魔法について言われた事がある。魔法は四つの色に分かれていて、それぞれ象徴と呼ばれるものがあり、色によって「守護天使」がついてくるらしい。色は、赤、青、緑、白の四つ。赤色は「賢明な奉仕の象徴」、青色は「力や強さの象徴」、緑色は「癒しの象徴」、白色は「純粋や神聖の象徴」だ。但し、おれがだした黒色と言うのは、邪悪とされ、天使が堕天したことによって魔力が黒く変色した色らしい。  「黒い魔法と言う事は、もしかしたら、ですが」  先生は言い渋った。  「サタンの仕業かもしれません」  「さたん?」  聖書や歴史の授業では確か出てきていた悪魔の名称だ。呼称では無かった気がする。そのサタンがおれに何かしたと言う事だろうか。  「君はその時初めて魔法が出ましたね。ということは、そう言うことかもしれません」  今まで魔法が使えなかったのは、サタンの仕業で、あの時魔法が出たのは、サタンが力を使ったから、もしくは、その時に憑りついたから。  「浄化せねばなりませんね、教会へ急ぎましょう」  先生は教室から早足で出ていき、おれはその後を追った。背後に誰かの気配がする。  「誰?」  「あ、……ごめん」  「オーウェン、どうしたの?」  「気になって」  先生はおれが後を追っていない事に気付き、戻ってきた。状況を把握し、  「じゃあオーウェン、ノアと一緒に教会へ来てくれるかい?」と言った。  「分かった」  先生はそれを合図に走り出した。おれたちもすぐにその後をついていった。  教会は四つある。東西南北に分かれてそれぞれ建っていて、おれたちが向かった先は、西にある教会だった。教会は泉の中に建っていた。木々のトンネルを抜けた先に広がるそれは空の色を反射して真っ青に輝いていた。  おれたちは教会へ続く橋を渡り、中へと入った。教会の天井、壁にはずらりと美しい男性が描かれた絵画がある。  「これらはすべて大天使ガブリエル様の絵だよ。美しいだろう?」  「大天使……」  ガブリエル、聞いた事があるような気がする。思い出せない。しかし、天使と言う割に、羽が描かれていないのは何故だろうか。  「ノア?」  「あ、大丈夫」  「……」  オーウェンには心配させたくなかったな。しかしそうもいっていられない。  「大天使ガブリエル様、どうか我々に力をお与えください」  教会の入り口から正面に向かって跪き祈りの姿勢をとった。すると、天井から神々しい光と共に天使の輪っかのついた男性が下りてきた。  「ああ、懐かしき友よ。待ちくたびれたぞ、ルシフェルの友。私は大天使ガブリエル、今お前に力を授けよう」  神々しい光を纏ったガブリエルはおれの前に来た。そして辺りは白光に包まれた。  しばらくして、目を開ける。光は治まり、目の前には夢ではないことが分かるほどの美しい姿をしたガブリエルがいた。  「やあ、久しぶりだねイザヤ。いや、君はノアだったかな。会えて光栄だ」  そう言っておれの手を取った。隣から凄い殺気を感じるが、オーウェンが警戒しているだけだろう。  「オーウェン、だったかな。君も久しぶりだね。顔立ちもそっくりだ」  そう言ってオーウェンの頬に触れた。青白い肌と肌が触れ合うのを見て嫌な感覚を覚えた。  「二人とも、私とすでに会ったことがあるのだよ。覚えていないだろうけれど」  先生は唖然としている。この状況を読み込めていない様子だ。おれだって不思議な感覚だ。初めて会った気がしないのだから。  「あの時はあまり話せなかったが、今回はゆったりと話す事が出来そうだね。……そうだ、さっきの光は、君に憑りついたものを取り除く光だ。だからきっと大丈夫だよ、それに私の象徴する白い魔法を授けた。きっと役に立つよ。またこの教会へ来て私を呼んでくれればすぐに会えるからね。ではまた会おう」  ガブリエルはそう言うと、また神々しい光に包まれて天井に消えた。  「す、すごいな。はじめてお目にかかる事が出来た……」  「先生」  「ああ、大丈夫かい?」  「はい。大丈夫です」  「良かった、これで君は白い魔法が使えるようになるね。あとで練習しなさい」  「はい!」  「オーウェンは」  「ボクは、青い魔法だよ先生。忘れたの?」  「あはは、そんなつもりはないよ。これで一安心だ。さあ、戻ろう。それとも、ここに残る?」  「ううん、先生と一緒に帰るよ。ね?オーウェン」  「うん」  「よし。じゃあ帰ろう」  オーウェンと手を繋ぎ、寮へ戻った。     *  「ミカエル、君は最高だ!」  「どうした、ガブリエル」  「天使とは切っても切り離せないような縁で結ばれるだなんて……またあの子たちと会えたことがとても嬉しいんだ」  「それは何よりだ」  天界にある宮殿。そこには四大天使と呼ばれる大天使たちがいた。宮殿の庭園には、噴水があり、そこから下界、つまり人間界を見下ろす事が出来る。ミカエルは噴水の淵に座り、彼らの様子をじっと見ていた。そこにガブリエルが帰還し、ミカエルに報告していた。  「君も早く会うと良いよ。彼らはきっとまた私たちの力を頼る事になるだろう。その時にまた会える」  「そんなに会いたいか?」  「会いたいさ!だってあの時はバタバタしていて話もろくに出来なかったろう? ゆっくり話でもしたいものだ」  「そうも言っていられないかもしれないな、神から聞いたんだ。また戦争が始まってしまうとね」  「そうか……愚かだ、何とも愚かだ。人間はいつの時代も変わらないんだな……」  ガブリエルは心底呆れた様子だった。  そこへウリエルがやってきた。  「ウリエル!調子はどうだい?」  「どうだい、って言われても。ただの門番さ、退屈だよ」  「ウリエル、ガブリエル。嫌な予感がする」  ミカエルは咄嗟に立ち上がった。ウリエルも何か感じたようで顔をしかめた。  「え?え?何だい、どうした?」  分かっていなかったのはこの場ではガブリエルだけの様だ。  「サタンの気配だ」  「ここまで来たわけではあるまいし」  「サタンだ!下界にいる、奴を殺さないと……!」  「ウリエル、落ち着け。とにかく、私は教会から彼らを支援しよう。サタンは人間に憑りついている」  「私もお供いたします!」  「ウリエルは門番だろう?」  「うっ……」  「ガブリエル、お前は何か感じないのか?」  「私は、先程下界にいた際に、ノアと言う少年から邪気が感じ取れました」  「ノア……? まさか、……な」  「いえ、そのまさかだミカエル。彼はイザヤ少年の生まれ変わりだよ。転生後、彼はノアと言う名前を付けられ、孤児院に引き取られた。そして人間の愚かな考えにより魔法を覚えさせられた。私は力を貸してしまったが、どうなる事やら……」  「そうか、ガブリエル。教会へ行こう」  「御意」
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