2 出会い

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 正樹はゲームにログインし月姫を操作はじめた。レベルは五で初心者マークが名前の横についている。まだレベルが低いので獣人国家とヒューマン国家の共通貿易港である港町の付近で、レベルを上げるためモンスターを倒すことにした。 月姫は難易度の高い雷を扱う魔法使いで、スキルを発動させるタイミングに少し難色を示したが、柔軟性が高く若い正樹は上達も早い。  いつもの狩場にやってくると人狼タイプの狂戦士が狩りをしている。名前はミスト。やはり初心者マークがついている。月姫の白っぽいシルクのローブ姿と違って、ミストは鉛色の甲冑を着て大きな曲刀を振り回していた。 少し躊躇って眺めているとミストが声を掛けてくる。 ミスト:hi 月姫:こんにちは ミスト:ここ使いたい? 月姫:いえー他探すのでいいですよ^^ ミスト:ペアってもいいですよ 月姫:邪魔じゃないですか? ミスト:ボーナスつくでしょ 月姫:ペアボーナス? ミスト:うんうまいとおもうw 月姫:じゃよろです^^  二人はパーティを組んでネズミのようなモンスターを狩ることにした。正樹は早々に自分のプレイスキルもなかなかだと自負していたが、ミストも結構な高プレイスキルだ。 月姫:ボーナスうまいですね^^ ミスト:でそw 月姫:ミストさんps高そうですねw ミスト:ヲリは単純だからねwそっちこそ雷ウィズ難しいのに上手いねw  正樹は褒められて照れた。  二人で狩ると経験値が多くもらえ、しかも数をこなせるためレベルが大幅に上がって行く。月姫はタクトのような細い銀色のスタッフを振るい電撃魔法の雨を降らせ、ミストは確実に一匹一匹を素早く仕留めていく。  そこへ母の洋子から「ご飯だよ!」の声がかかる。 (あー。もう飯か……) 逆らうことはできない。パソコン自体取り上げられかねないからだ。 (面白いのになあ) 月姫:ご飯になっちゃったのでそろそろ落ちます ミスト:うん。またね 月姫:またよろです^^  月姫の装備を修理し、ゲームをログアウトして正樹は食卓へと向かった。  公園を通りがかると桜はもう葉桜でいつの間にか通学路は黄緑色がメインの色彩になっていた。正樹が中学に通い始めて一ヶ月が経っている。  部活動はあまりうるさく言われない水泳部に決めてマイペースに顔を出している。とりあえず問題なさそうな学校生活によって母の洋子からはまだ文句は出ていない。 たまに父親の幹雄とネットゲームの話をすると怪訝そうな顔をするが、今度のテストでほどほどの成績を見せられれば何も言ってこないだろう。(中の上ってラインが一番問題ないんだよな。) 双子の姉、知夏と実夏は正樹よりも五歳年上で今、高校三年生だ。その姉たちを見ていると自分にとって楽な立ち位置がよく分かった。 『まあまあ』『だいたい』『そこそこ』を生活基盤としていれば、とりあえず間違いなさそうだ。  男の割に機転が利き、器用で柔軟性がある性格は姉たちのおかげだろうと思っていた。また女には逆らわないという姿勢も、毎日を無難に送る秘訣だった。目下の楽しみの『KR』のことを考えながら正樹は浮足立って家路を急いだ。  洋子に声を掛け、軽く部活の話をした。どんな先輩がいるかとか今やっているトレーニングだとか。適当に情報を渡した後、正樹は制服を脱ぎシャツとトランクス姿になってパソコンを起動した。   ローディング画面が流れ、月姫が登場する。  もうレベルは三十になっていて初期装備に比べ守備力も上がっていた。本土の獣人国に行っても平気だろう。しばらくこの共通貿易港で狩りをすることもないと思いながら、クエストの取りこぼしがないかチェックしてみた。 (ああ。虫退治三十匹残ってるのか) 大したクエストではないが一応コンプリートしておきたいと思い、狩場に行ってみた。どうやら先客がいるようだ。  名前は☆乙女☆。ピンクの妖狐で職業はヒーラーのようだ。ヒーラーは攻撃には向いておらず、基本的に攻撃職の回復を務める補佐役になる。一人で狩っているようで効率が悪そうだ。不格好な棍棒を振り回しているが大きなダメージを与えられず、返り討ちにあいながら自分の回復に努めているようだ。 (うわー。一匹倒す前に湧いちゃってるよ)  見かねた正樹は声を掛けた。
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