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20 恋心
雑踏の中を手をつないで月姫と歩く。都会の人ごみを映像で見ると、慌ただしく急いでいるのに、無表情で寂しい雰囲気を感じる。
しかし名古屋まつりの人込みは熱気と活気を帯びていて、星奈にとっては珍しい高揚感が生じる。月姫と一緒に居るからかもしれない。
二人で一通り戦国パレードを観覧し、練り歩いた後、去年と同じように味噌煮込みうどんを食べるために店に入った。
「あっちぃっ」
今年も、土鍋の熱さと格闘している月姫を見て星奈は微笑んだ。
「姫は猫舌だね」
「いや。これ、そんなレベルじゃないだろ」
すすけた土鍋の中で、グラグラと煮立った赤味噌に白いうどんが見え隠れする。同時に、月姫の白い肌が熱気で紅潮する。
ずずっと麺を啜った後、息を吐き出して「でも美味い」と言い、次のターゲットに狙いを定めている。
「横浜には中華街があるんだよね。有名なお店ってやっぱり美味しいの?」
「ん。有名になる前は美味かったりするけどさ、落ちてるとこも多いよ。オフ会やった店はなかなかだった」
月姫は好き嫌いがないようだが、意外と味にはうるさいようだ。チェーン店には入りたがらず、高級ではなくとも、個人店で店構えが清潔できちんとしたところを好む。
「ふー。腹いっぱい」
「汗だくだね」
星奈がハンカチを貸そうかと思ったが、月姫はジーンズのポケットからきちんとアイロンのかけられたハンカチを取り出し、おでこの汗をぬぐった。(女子力高そう)
汗をかいても、清潔感があり男臭さを感じさせない彼に星奈は感心する。
「今度、横浜に遊びに来いよ」
「そうだね。中華食べてみたいな。海も見たい」
「海?」
「うん。うちって海ないし、山ばっかりなんだ」
「まあ。横浜も海ばっかりじゃないけどな。どっちかっていうと山のほうが多いよ」
「ふーん。そんなものか」
「でも、中華街とか海近いし、いいところあるから連れて行ってやるよ」
星奈は青い海に思いを馳せる。またネットゲームで会う約束をして月姫と別れた。
駅の人ごみを、するすると滑らかに縫っていく月姫の背中を見る。どんなにごみごみしていても、巻き込まれることなく、彼は柳のようにしなやかに存在している。
星奈は月姫に恋をしている自分に気づいてはいるが、付き合いたいとか、独占したいとかの欲求が不思議と沸いてこなかった。月姫は何度か彼女の存在を口にしており、実際に会ってみると女子受けは良さそうで、モテるだろうと思った。
ただ今どきの男子らしく、恋愛が面倒らしい。こうして二人で会えるのは、今は恋人がいないと言うことと、星奈とはインターネット上とはいえ長い付き合いの中で、信頼関係が築かれているからだろう。
いつまでこういう仲が良い関係でいられるのかは、月姫の環境によるものだと星奈は思っている。
ネットでも現実でもいいから月姫を感じていたいと、消えていく月姫の頭を見ながら手を振った。
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