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13 オフ会
ギルドでは廃人と呼ばれるゲームに生活をすべて捧げてしまうようなプレイヤーがいない代わりに、長期間遊び続けているプレイヤーが多いため、いつの間にか最大手のギルドになっていた。
始めてから七年も経つのかと思うと正樹にも感慨深く、主要メンバーとの初めてのオフ会は少し興味深いものだった。メンバーの多くは関東と東海地方に住んでおり、都合よく正樹の暮らす横浜で行われることになる。中華街で集まることになり、正樹が良さそうな店を見つけて予約を取った。
ギルドには現在二十人ほど所属しているが実際に集まれるのは八人程度だ。ミストは来るが☆乙女☆はこない。(リアルミストか)
☆乙女☆にも会ってはみたかったがゲーム内での関係で十分なのでそれほど頓着しなかった。
賑やかな中華街は何年か前に家族と来たっきりだった。雑貨屋やら食べ物やら主に赤い色合いの光が夏の明るい夕方に散りばめられていて、それらを眺めながら正樹はワクワクして目的の店に向かう。
ギラっとした極彩色の店内に入ると、チャイナ服の店員に声を掛けられたので名前を告げると大部屋に案内された。六時から開催予定で今はまだ五時四五分だが、すでに二人ほど到着しているようだった。透かしの入った格子の扉から正樹は顔をだし部屋に向かって声を掛ける。
「こんですー」
「お、こん」
「こんー」
見ると三十歳前後だろうかと思われる男が二人座っていた。(たぶんミストとKAZUさんだ)
「姫? 俺ミストだよ」
「あ、はい。月姫です」
「おお。姫か。俺KAZU。」
思った通りだった。ミストは中肉中背であっさりした優しげな顔立ちに銀縁の眼鏡をかけていた。KAZUは少し濃い目の顔で色も浅黒くガタイも良かった。
「さすがヲリって感じですね」
正樹は席について率直な感想を言った。
「姫こそ、やっぱり美少年だったな」
「そんなことないですけど」
「あんまり違和感ないね」
正樹は色白で黒目がちな切れ長の奥二重で、中性的な顔立ちだった。身長は百七十センチを少し超えた程度で今時にしては大きくなかったが、水泳のおかげで滑らかな流線型の肢体と卵型の小顔でスタイルが良かった。
「姫のコスプレしてきても良かったのに」
「いやですよ」
そのうちにガヤガヤとメンバーが一人二人とやってくる。中には正樹が男だと知ってがっかりする者もいた。しかしいつの間にかゲーム内のように仲良く楽しく盛り上がっていく。今夜の集まりは大学生と社会人で最年長がミスト、最年少が正樹だった。
「俺、オジサンで恥ずかしいよ」
「そんなことないっすよ」
「やっぱミストさん、マジカッコいいですわあ」
正樹も現実のミストが大人で格好良くゲーム内のイメージと変わらないことに感心していた。自分の中性的な容姿を嫌ってはいなかったが、ミストのように男っぽい外見は憧れの対象で羨ましく思う。
全員揃ったところで乾杯をした。ミストと正樹だけウーロン茶だ。
「飲まないの?」
「車できたしね」
「そか」
「姫は?」
「あんまり好きじゃないんだ」
「じゃあ、合ってないんだな。今時飲まなきゃだめってことないから無理しなくていいと思うよ」
「うん。それより飯だな」
運ばれてくる料理を次々と正樹は平らげていると「姫が飯食ってる~」 とか「人参も食べてえー」 などからかうものがあって面白かった。
「俺はまだ育ちざかりなんで」
そんな様子をミストが優しく見守っていた。
一応十時までの予約だったのでオフ会はお開きとなった。帰路につくもの、そのままネットカフェに朝までいるもの各自、自由行動をとり始めた。
「姫は家どこ? 市内だろ?」
「うん。電車ちょこっと乗るけど」
「送ろうか」
「いいの?」
「いいよ」
正樹はミストの車に乗せてもらうことにした。
「なかなかいいね。渋くて」
「もうずいぶん年式古いけどな」
しばらくすると正樹の家の近所にあるファミレスが見えてきた。
「ああ、そのへんでいいよ」
「いいのか?」
「うん」
なんとなく名残惜しかったので正樹は「もう、すぐに帰る? そこのファミレスでコーヒー飲まない?」と聞いた。
「そうだな。カフェインとっておくかな」
二人で店に入りコーヒーを注文した。
「さっき楽しかったね。でも俺のこと女だと本気で思ってたやつがいたなんてびっくりだよ」
笑いながら正樹が言うと「昔はよくネトゲに女がいるなんて都市伝説って言ってたけどね」ミストも面白がっていう。
「実際は案外いるもんだよね」
「だね」
ミストが少し一呼吸おいて言った。
「今度プロポーズするんだ」
「え」
正樹は目を丸くしてミストを見た。
「スカーレットにね」
ミストが敵種族のヒューマンである女盗賊『スカーレット』と懇意なのは知っていたが、現実でもそんなふうに進行している関係だとは思ってもみなかった。
「KRで知り合ったの?」
「いや。リアルで。KRにいたのは後で知ったんだ」
「へー。なんかすごいね。俺、まだ好きな気持ちとかよくわかんないよ。結婚なんてするのかなあ」
「俺も一人でいるほうが楽だったし結婚なんてしたいと思わなかったけどね」
「なんか違うの? スカーレットさんは。特別な人なの?」
正樹は自分には経験のない感覚に興味が湧いた。
「うーん。特別というより、俺にとって唯一の女って感じがする。この人以外には感じないっていう感覚かな」
「なんかエロイな」
「大人だからエロくていいんだよ」
笑いながら言うミストになぜか正樹が照れてしまった、と同時にそういう相手に巡り合えたことを羨ましく思った。
「なんかいいね。俺にもいつか出てくるといいけどね」
「きっといるよ」
まだ見ぬ相手に正樹は期待を膨らませた。
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