26 中華街

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26 中華街

 新横浜駅に☆乙女☆を迎えに行った。改札を通り抜けキョロキョロしている☆乙女☆に声をかける。 「乙女、こっち」 「あ、姫」  笑顔で☆乙女☆は駆け寄った。相変わらずショートヘアだが今日は薄いブルーのワンピース姿だ。 「ちょっと電車乗り継ぐけど」 「うん」 「このまま中華街まで行ってしまおう」 「オッケー」  二つほど電車を乗り継いで中華街に到着した。☆乙女☆が調べてきたという有名店は正樹にとってはイマイチだと思ったので、別の店に入ることにした。  席に着きながら店内を見回す☆乙女☆に「今日はおごるから好きなもの頼めよ」と言った。 「いいよー。私だって働いてるし」 「初任給もらったんだよ」 「私、けっこう食べるの知ってるでしょ?」  朗らかな☆乙女☆の笑顔を見ると正樹は(可愛いな)と思った。 「そうだ。前から思ったたんだけどさ。姫って呼ぶのリアルだと恥ずかしいから本名で呼んでくれる?」 「ああ。私も恥ずかしかったんだ」 「十年も付き合ってきたのにな」 「ほんと」  なんだか感慨深くて不思議な気がしていた。 「仕事どう?」 「中坊って結構、面倒な奴多いよ」 「思春期だしね。私も荒れたな」 「そうなのか?」 「うん。姫、じゃない正樹とかと遊んでなかったらやばかったかも。うちって兄貴中心で私はいらない子だからさ」  今更ながらに☆乙女☆の話を聞いてもっと構ってやればよかったと正樹は思っていた。 「おと、星奈の仕事はどう? ホテルだっけ」 「ううん。ホテルはやめてね。保育園の給食作ってる」 「へー。給食か。大人になって食ってみたけどやっぱ作り立てはうまいよな」 「そうなの。子供があったかいものを美味しそうに食べるのを見ると幸せな気持ちになるよ」  ☆乙女☆が寂しい子供時代を過ごしてきたことを想像すると、自分自身の今までの人生が甘く幼い気がしていた。  目の前に料理が並び始めた。色んなものを少しずつ食べたいという☆乙女☆のためにコース料理を注文している。 「うわー。美味しそう」 「いただきます」  美味しそうに綺麗に食べる☆乙女☆を見ると正樹はなんとなく顔が火照ってきてしまいドギマギする。(なんだろ。変な感覚) ☆乙女☆に『女』を感じてしまう。(これがミストの言ってたやつかな)  今日の予定は昼から夕方まで中華街で食べ歩きをしてから、海が見える丘公園に行き告白をして、駅まで送り別れることにしていた。  しかし正樹は気持ちが暴走し始めていて順番が狂いそうになっている。 「食べないの?」 「あ、いや。食うよ。上手いなこれ」 「これなんだろ。香酢かなあ」 「お、さすがだな。味がわかるのか」 「少しくらいならね」  唇の端に着いた餡をなめとる☆乙女☆を見ていると正樹は我慢できなくなってしまい。思わず口走った。 「今日さ俺んちに泊まらない?」 「え」 「いや、あの。えっと」 「慌てなくてもいいって」 「あ、う、うん」  箸をおいた☆乙女☆がうつむき加減で正樹の言葉を待っていた。 「俺、おと、星奈が好きだ」  ☆乙女☆はくすっと笑って「二人の時は乙女でいいよ」と言った。 「ん」  正樹はのどがカラカラになった気がしてウーロン茶をごくごくと飲み干した。 「とりあえず、あったかいうちに食べようよ」  そう☆乙女☆に促され、正樹は味がよく分からなくなった料理を平らげた。
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