1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっとハルっ。ハルってばっ。あわよくばマネージャーの顔拝もうとか考えてるんじゃないでしょうね」
「何言ってんの、それ以外何があるっていうの」
「ですよね。失礼言いました」
間髪入れずに返されてしまった。
ずんずんと足を早めていく遥に対し、心做しか奈々子の足は重くなっていく。
「奈々子、階段降りたらどっち」
「回れ右」
「ふざけてんの」
「すいません左です。体育館に向かえば大丈夫です」
言うだけ無駄だったらしい。
遥のペースで階段を降りると、左へと方向転換。ポニーテールも元気に揺れ、後ろで引っ張られている奈々子も勢いよく左に曲がった。こちらの方向は玄関と同じだからか、生徒と多くすれ違う。バタバタ逆走する二人組を目撃した何人かは不審そうに一瞥していった。
「ねえ、奈々子」
真正面を見据えながら、駆け抜けている遥が不意に声を掛けた。このまま玄関を通り過ぎたあとは道なりに進めば良いので、案内は要らない。
「なに?」
「この時間まで倉庫に残ってて、その子は一体何してるわけ」
いきなり何かと思えばそんなことか。
奈々子は拍子抜けしつつも、あっけらかんと答えた。
「何って、仕事でしょ」
「はぁ? ……あぁ、奈々子はそこんとこあまり分かってないのか」
ボソリと呟いた彼女の声が聞き取れなかった。握られている奈々子の手首がじんわり汗ばむ。
「ん? ハルごめん、なんて言った?」
「何でもない。直接見れば分かることだしね」
そう言った遥の足がピタリと止まった。と同時に奈々子の背筋が凍りつく。先程までにわかに汗が出てきてたのに一気に冷えたような感覚に襲われた。恐る恐る遥の背中越しにこっそり覗いてみたが、間違いない。
倉庫前だ。
最初のコメントを投稿しよう!