厄介事

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「おはよう、真くん」  ひらりと片手を振って返す遥。自分の背後ではバレないようにと奈々子が押し黙っていた。正直意味は無いのだが、彼女なりの自己防衛のつもりかと思った。  こちらを怪訝そうに見ている部員の中心に女子がいる。ボーイッシュなショートヘア。彼女の握られたスマートフォンの透明ケースには、自身のと思われる証明写真が入っているようだった。これが奈々子が先程話していたマネージャーだろう。案の定の構図に遥は思わず溜め息が零れてしまった。 「なんだ真。この人知り合いか」  そんな遥の心中に気づく様子もなく、男子部員の一人が何気なく尋ねる。 「一緒になるとたまに三人で帰ってるから。そうだよな? アリ」  急に話が振られた奈々子はギクリとした。相も変わらず、間が悪いとかその発言はどうなのかと色々と言いたい。遥の影で頭をかかえた。 「アリ? いるよな」  名前を呼ばれてしまってる以上、何かリアクションをしないと分が悪い。あまり干渉したくないため、奈々子はひょっこりと顔だけ出す。 「あ。なんで隠れてるんだよ」 「友達だったら言えよな、アリ」  笑いながら次々と声をかけてくる男子部員に奈々子は、精一杯空笑いで答える。 「そう言えばアリ。なんか忘れ物でもあったの?」  男子の声の合間を縫って、高い声の変化球が飛んできた。幹 清花だ。口許はにっこりと可愛らしい笑みを浮かべているが、目を見てみるとあまり歓迎していないようだ。ひとつも笑ってない。
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