厄介事

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「あ、逃げられた」  真は前腕を軽くさすりながら、奈々子たちが走り去っていった方向を見つめる。いつものことながら逃げるのは早い。部活の時にも、その俊敏さを少しは還元されて欲しいと思うと苦笑が漏れた。  腕はさすってみたものの、奈々子の力ならアザにもならないと真はさほど心配していない。 「お前らってほんとに仲良いよなあ」 「仲良い? おれとアリが?」  キャプテンがにやけ顔で横から小突いてきた。 「マネージャー同士だし、やっぱ積もる話とかあるん?」 「うわ、ありそー。めっちゃ青春カップルじゃん」  茶化すようにひゅーひゅーと何人かも口笛やらで参戦してくる。 「カップルってあのなあ。さっきから何の話をしてんだか」  そう言いながら真は食べ終わった総菜パンの袋を丁寧に畳んだ。あとで教室のゴミ箱に捨てておこう。やれやれと自分のリュックも背負った。  すると、あれだけどんちゃん騒いでいたのに今度は誰も言葉を発しない。さすがに不審に思った真は首を傾げた。 「今度は何」 「いや。思ったよりガチトーンで返してくるから」  真は倉庫から出て行こうとした足を一瞬止めて、虚空を見つめる。そして、ようやく言葉を理解したのか唐突に「あっ」と短くはっきり声を出した。 「ちょっと待て。さっきからアリとおれが付き合ってるって言ってる?」  いきなり時差が生じたのかと思った。 「な、え、違うの?」 「逆にどう見たらそうなるんだ」 「やべえ、ガチだよ」 「どうすんのこれ」  心底驚いたように答える真に部員たちは想定外もいいところ、大ファールだ。顔をひっつけてヒソヒソと何やら話し合いが始まったが、自分の耳に内容までは聞こえてこなかった。     「だから前にも言ったのに」      当然、清花がボソリと呟いた言葉も、不満いっぱいの表情も真は気がつかなかった。  
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