1人が本棚に入れています
本棚に追加
厄介事
翌朝。
寝る前に平凡な日々を願って、今朝の目覚めも良かった奈々子に悲劇が襲う。
学校に着いて、奈々子が向かう先は体育館倉庫だ。
がらがらと盛大に鳴くドアを開けると同時に、奈々子はいぶかしげに眉間に皺を寄せた。朝練はないが、部内で決められている備品の確認のため立ち寄ったのだ。放課後に部活を早く始めるために朝のうちの準備が肝心だとか何とか、と監督の方針らしい。
そんな奈々子が朝から肩をがっくりと落としたのは、この仕事が嫌だからではない。
「よう、アリ」
開けた瞬間、手を挙げて挨拶する真が目に飛び込んできた。悠長に跳び箱の前に座り、惣菜パンを食べている。
確かにここで時間を潰す部員はちらほらいる。男子部室が体育科の教員室に近いため、それとなく広まっている風習だ。
朝からこの男に遭遇するだけならまだしも、今日はどうやらもう一人いたらしい。真の後ろからちらりと顔だけ出した。
「あー、おはようございます」
真に続いてよそよそしくぺこりと奈々子に挨拶したのは、最近男子部のマネージャーになった幹 清香だ。どうやら、先輩たちが引退した夏の大会が終わってから入部していたらしい。
奈々子本人とはあまり関わりを持たない。練習中はごくたまに見かける程度で、毎日来ていないのではと思うほどだ。
「はあ、どうも」
特に愛想を良くする必要がないと判断した奈々子は、二人分まとめて挨拶を返した。すぐにこの倉庫から出ていきたい気持ちが逸って、そそくさと備品確認に移る。
「ねえ、マコトって昨日の練習で怪我してない?」
「いや。してないと思うけど」
「本当? 腕のあたりとか大丈夫? あいつとぶつかってたじゃん」
「そうだっけ。あ、こら。袖いきなり捲るな」
聞きたくなくても奈々子の耳に入ってきた会話だが、最近のマネージャーは随分と仕事熱心のようだ。
最後に掃除用ロッカーの中を確認し、不備が無いことを確認すると思いきり物置の外に出た。扉も勢いをつけるかのように、がこーんっと派手な音を鳴らす。
飛び出した際、真が自分の名前を呼んだ気がするが気のせいだと思うことにしよう。うんと力強くひとり頷いた奈々子は、早速教室まで走り込みをする羽目になった。
最初のコメントを投稿しよう!