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「で、何。なんかあったワケ」
いくら何でも暑さでやられたわけじゃないことくらいは分かっていた。
遥は机の引き出しから下敷きを取り出しながら問いかける。団扇のように扇ぐとペラペラな音が鳴った。
「そんな大したことじゃないけど」
「どうせまた部活っしょ」
「まあ、そうなんですけどね。それより先に言うことあるでしょ、わたしに」
「はいはい、そりゃどうもすいませんでした。そんで?」
投げやりな謝罪で綺麗に一蹴されてしまった。挙句、話を促されたので先に進めるしかない。奈々子は制汗シートで首を拭いたあと、そのままタオルのようにかけた。ぺたっと遙の机に火照った頬をくっつけると、下敷きの弱い風がそよそよ吹いてくる。
「なんかこう、あれですよ。あれ」
朝から勘弁して欲しいというか、と少々苛立ちを含みながらため息混じりに言葉を零した。あまりにも抽象的だったが、最近奈々子が口にする内容からなんとなく察しはついた。
「例の男子バ」
「やーめーてー。部活の名前出さないで、気が滅入る」
「はいはい。最近噂の男子部のマネージャーね」
「ありがとう、それそれ。お仕事熱心なんだろうけど、ちょっとあの……よからぬものでもみてる気持ちになっちゃうっていうか」
「ほお」
遥が下敷きのささやかな風を送りながら、僅かに語尾を上げる。この意味ありげな反応に奈々子は何だか嫌な流れになりそうだと少々不安になった。
「あ、待って。なんか今余計なこと考えてない?」
「さあ、どうでしょ。それよりそのマネージャー、前にやらかしてなかった?」
見事にはぐらかしてきた。同時に鋭い切り込み。内心感服しながら、奈々子はあまり乗り気ではない自分の口を開いた。
「こないだの未遂事件ね」
「ほんっと物騒、あんたのとこ」
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