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栗林先輩
先日のプレゼン内容を元に、会社は試作品を作ることに着手した。脱ぎ履きしやすいよう、サイドにボタンをつけたものだ。腰のギャザーも締め付けはなくとも緩すぎない、不安のないものにしたいと、栗林は熱弁した。
ミーティング室を後にしながら、栗林は百香を振り返った。
「沖永さんの、不安を解消するキャッチも良かったね」
「『紐パンの変形』ってヤツですか。あれは……実際どうだったんでしょう。本に、不安を減らすような表現がいいと書いてあったので」
苦笑いすると、栗林は親指を立てて見せた。
「勉強家だね。そういう人、チームにほんっとに必要だから」
「……!」
彼の真っ直ぐな褒め言葉と笑顔に、ますます胸が暖かくなる。
仕事に熱心になってから、百香は栗林と一緒にいることが多くなった。もちろん仕事だから、だが、自分が積極的に関わろうとすると、同じ熱意を持った人を引き寄せるということが分かってきた。
「今日はリサーチなんだけど。沖永さんも来ない?」
そう尋ねながらも、栗林は既にホワイトボードには自分と百香が外出することを書いている。
「リサーチ、ですか?」
「うちの商品使ってもらってる老人ホーム。今回は試供品の感想聞きに行くんだけど」
振り返り、いつものように歯を見せて笑う彼に、百香は大きく頷いて立ち上がった。
「栗ちゃん! 元気にしとったかね」
「もちろんっすよ! 皆さんお元気ですか?」
背の曲がったおばあちゃんたちが、栗林が到着するなり寄ってくる。後ろで男性利用者が面白くなさそうに口を尖らせていた。
「今日は『下着』の使い心地を聞きにきたんですが」
「ああ、あれね! まあまあだね」
栗林に誘導され、十数人が交流ブースに座って、突然会議が始まる。
「他の会社のも持ってきてたでしょ? どれが一番良かったですか?」
「言いにくいけどね、栗ちゃんとこのよりも花綿会社のオムツが良かったよ」
「いいんですよ、そういう遠慮はしなくて。どう良かったの?」
一人が意見を出すと、次々に皆自分の考えを口に出し始める。それを栗林はスマホで録音しながら真剣に聞いていた。
百香はぽかんとその様子を見ていたが、慌てて近くに寄ってノートを取り出した。
「あ、この子、俺の後輩の沖永百香さん。よろしくお願いします」
「よっっっ、よろしくお願いします!」
突然紹介され、利用者の視線の中で百香は腰を九十度に折って挨拶した。大勢の前で紹介されたのと、栗林の口から自分の名前が出てきたことに真っ赤になってしまった。
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