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あなたへラズベリータルトを
「お帰り、ハンス兄さん」
「グレーテ、久しぶり」
大学の夏休み。彼は故郷の妹の家に帰って来た。帽子と旅行鞄を彼女に渡し、ドアを閉める。質素だが手入れの行き届いた居間に通されるとほっと一息つく。
「都の生活はどう?」
「ああ、田舎とは大違いだな。何もかも」
森の近くの父親の薄暗い木こり小屋からこの町に移り住んだ頃は、人と店の多さに目を丸くしたものだ。だがそれも都とは比べものにならないほどお粗末な賑わいだったと、今なら解る。
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