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「ね、ね。なでていい?」
兄の時を思い返せば、嫌だと拒否りたくなる綾乃だけど、小さい子が相手なら我慢してみせよう心に決めて「カ」と短く返事する。
意味が伝わったのか、衛藤兄は弟を呼び寄せると、自転車にまたがった状態で体を傾けて肩の位置を低くした。
弟君は最初、おっかなびっくりで背伸びをしながら一本の指でちょちょんとなでる。こそばゆかった綾乃は、バサッと後ろの荷台に足場を移して、なでやすい高さになってあげた。
姿勢を整えて弟君とまっすぐ向き合うと、首を動かしてあいさつしてみる。そしたら、弟君は目に見えて喜んでくれた。
こんなにわかりやすいと、ひねくれ者の綾乃でも嬉しくなってしまう。しかも、背中をなでなでしながら「可愛いねぇ」と言ってくれるのだから、綾乃はすっかり弟君が気に入ってしまった。
烏丸綾乃でいる時は親でも可愛いなんて口にしたりしないのに、カラスの綾乃だと簡単に言ってもらえるのだから気分がいい。
気をよくした綾乃が大サービスでなでる手にスリスリと頬ずりを返せば、弟君はくすぐったそうに笑った。
「あら、お帰り」
「……ん?」
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