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烏丸綾乃は、学校から家に帰ったところだった。
靴を脱ぎかけのタイミングで母親がリビングから出てきたので、開けられた部屋の向こうからローカルな情報番組の音声がもれてくる。
「ジャージ出すんでしょ。持ってくわよ」
「うん、ありがとう」
母親は綾乃が持って帰ってきたジャージ用の袋を引き取って洗濯場に消えた。
何の変哲もない、語るほどのこともない綾乃の日常だ。なのに、脳内に「?」が浮かぶ。
「お母さん。私、いま、普通に帰ってきたんだよね」
「何言ってるの。まさか、寝ぼけながら自転車こいで来たんじゃないでしょうね」
洗濯場から声だけで対応された。
「そうかもしれない」
戻ってきた母親が「また、だらだら起きてたんでしょう」とチクチク責めてくるので、今日は早めに寝ると宣言しておく。
「ところで、夕飯って何?」
「帰ったら早々にご飯って、そんなにお腹空いてるの?」
うんと頷いたら、煎餅でも食べてたらと質問をスルーされたので、まだ献立が決まってないか、たいしたメニューじゃないのだなと推測できた。
そんな、ありきたりなやりとりだったので、綾乃は異常から日常に戻ったことに気がつかなかった。
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