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総一①
今度こそよい結果を得ることができる、自分の中で手ごたえを感じた。
完成まであと少し。
だが大切な絵は無残に切り刻まれて作品としての完成させることはできなかった。
その光景はどこか遠くのもので、喧騒すら聞こえない。
誰かが強く抱きしめた。ゆっくりとそちらに視線を向けると、同じクラスで友達の尾沢冬弥が険しい表情をして一点をみつめていた。
そこにあるのは色とりどりの紙吹雪のようなもので、誰かのお祝いでもしたのかと首を傾げる。
「総一」
名を呼ばれた。
静かだった美術室がざわついている。
女子部員の何人かが泣いている。大丈夫だと背中をさするのは部長の三芳だ。
そして数名の部員が心配そうに橋沼をみつめていた。
「皆、心配をかけてしまってすまんな」
「そんな、総一は被害者だろう!」
悪いのは絵を切り刻んだ人物。だが、心配をかけてしまったのは自分だ。
「先生と三芳に話がある。皆は、コンテストが近い時期に悪いのだが部活は休みに」
この一件はここにいる人たち以外に話さないでほしい、そう先生と部員に頼んだ。
おおごとになってコンテストを辞退することになるのは避けたかった。
後日、先生の元に犯人が名乗り出た。三年の男子部員で、コンテストに間に合わないという焦りと、橋沼の絵をみて嫉妬をしたそうだ。
冷静になり、犯してしまったことに反省し先生に申し出たという。
取り返しのつかないことをしてしまったと橋沼に直接謝りに来た。
恨んだところで絵は戻らない。男子部員には退部というカタチでけりをつけた。
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