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「私の順番、まだかしら?」
門倉総合病院の待合室にて。
ショッキングピンクの帽子にベビーピンクの上着、サーモンピンクのパンツをコーディネイトしたピンクづくしの老女が、しびれを切らしたように受付窓口に声をかけてきた。
「ご予約は何科ですか?」
製菓工場から転職し、医療事務員として勤め始めて2年になる内藤康恵は、マニュアル通りに尋ねる。
「ナニカ? 私は眠れなくて来たの」
「心療内科ですかね…整理番号は何番ですか?」
「セーリ? 生理は、とうの昔に上がったわ」
トンチンカンな老女の返答に康恵は一瞬怯んだが、めげずに丁寧な説明を返す。
「そうじゃなくて…外来受付機に診察券を通された時に、用紙が出ましたよね? そこに記された番号を教えてください」
「用紙? 用紙なんてもらってないわよ」
「では、診察券をお見せください」
「診察券なんて、持ってないわよ」
「えー…」
ついに絶句してしまった康恵の背後で、落ち着いたトーンの声の主が助け船を出した。
「どうされました?」
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