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「甘酒さん。美味しそうなお名前ね、覚えたわ」
名前は聞き間違えたものの、しっかりとした足取りで、バインダーに挟んだ問診票を倫音から受け取ると、老女は待合の長椅子に向かってスタスタと歩き出した。
「ありがとう、天崎さん。仕事とはいえ、毎度のように会話の通じにくい年寄りの相手をするのは、本当に頭が痛くなるわ。あなた、以前にも医療事務をされていたの?」
「今回が初めてです」
意外な答えに、康恵は目を見張った。
「そうなの? 慣れてるから、経験者かと思ったわ」
「通信教育の半年コースを1ヶ月で終えて、1週間前に資格取得しました」
「半年コースを1ヶ月で修了!? どんだけ、チートなの…」
倫音の有能ぶりに康恵が2度目の絶句をしていると。
紫色のボディコンスーツに鎖状の金ネックレスを装着した中年女性が車椅子に乗って、ワンレンソバージュヘアをなびかせながら、華麗なセルフ操縦で前方から突進してきた。
「倫音ちゃん!」
遠目でも目立つそのビジュアルの持ち主は。
倫音の恩師であり、年の離れた友人といえる存在でもある『おふくろ料理 恵子』のオーナーママ・恵子だった。
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