なかよし家族はんぶんこ

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なかよし家族はんぶんこ

 ママは言いました。 「ケンカをしないで」  パパは言いました。 「姉妹仲良く、半分コにしなさい」  はあい、とわたしたちは答えました。  そしてチョコレートを半分に割って、二人で同じだけ食べました。  ケーキも半分コ。ビスケットも半分コ。  ぬいぐるみも半分コ。真ん中で分けて、半分コ。  ママが悲鳴を上げました。 「どうして、買ってやったばかりのぬいぐるみを切っちゃったの! 半分コ?一緒に遊べばいいじゃないの!」  わたしたちは首を振りました。    パパとママが合わさって、出来上がるのは一人の子供。わたしたちは二つに分かれて生まれてきたの。姿かたち、性格までそっくり同じでも、仲がいいとは限らない。  わたしたちはオナジヒト。だけどふたりでひとつじゃだめ。ふたりはふたつ、必要なのよ。  だからなんでも半分コ。  赤とピンクのリボンがありました。  どちらもとても素敵でした。  だから、どっちも半分コ。まんなかで切って、ふたつずつ。短くなってしまったけど、髪を二つに分ければ結べました。  右が赤色、左がピンク。 「……せっかく、見分けられるように色を分けて買ってきたのに。……せめてどちらかが、左右を逆にしない?」  わたしたちは首を振りました。  だって、おんなじがいいんだもの。  パパとママが、夜遅くまでお話していました。  みんなで一緒に寝たいのに、ぜんぜんお部屋に来てくれませんでした。  そう言えば、しばらく前から、パパはリビングで寝ていました。パパがベッドにいるときは、ママがリビングで寝ていました。  まだ眠らないの、と、わたしたちが何度目かの声をかけたとき。パパとママは言いました。 「……パパとママは、別れて暮らすことになったんだ」 「大好きな子供たちを、公平に半分ずつもらうことにしたのよ」  明日、私たちが出かけている間に、どちらがどちらについていくか、相談して決めなさい――  パパとママはそう続けて言いました。  だけどわたしたちは、そんな相談なんて全然しませんでした。  わたしたちは、ふたりでふたつ。そっくりおなじ、こどもがふたつ。それをひとつずつ分け合えばいい。パパとママにとってはそうだったみたい。  だけどそっくりおなじでも、わたしたちはちがうひと。離れて暮らせば、二度と会えなくなってしまう。  パパとママはちがうひと。  どちらかに会えなくなるなんていやだよね。  わたしたちはそういって、うなずきました。それからじゃんけんをしました。いつまでも勝負がつきませんでした。  しょうがないので、くじを作りました。  妹がマルのついた札を引きました。  ――わたしにむかって背を向けた、妹。赤とピンクのリボンで分けた、髪の毛のどまんなか。その白い皮膚に向かって、わたしは斧を振りました。  妹はなかなか、分かれませんでした。刃物はまっすぐに刺さったけど、額のあたりで止まってしまいました。頭蓋骨って、びっくりするほど硬いのです。わたしは一度、斧を抜き、もう一度振りかぶって、「せえの」で下しました。ガツッ――こんどは鼻のあたりまでいきました。  妹の目玉がとびだしました。片方だけだったので、なくすといけないと思い、はめ戻しておきました。こっちはママのぶんなのです。  ガツッ。ガツ、ガツ――  何度も何度も振り下ろすたび、少しずつ、少しずつ、半分コになっていく妹。  それはやっぱり、大変な作業でした。妹がきれいに半分コになるころには、わたしはもう、疲れ果ててしまいました。  マルを引いた妹がとてもうらやましく思えました。  夜遅く、ママが帰ってきました。わたしはすぐに、玄関まで迎えに行きました。  半分コになった妹を差し出して、 「これ、ママのぶん。パパのぶんはリビングにあるよ」  ママは、なにか、冗談だと思ったようでした。ママは首を振りました。冗談やめてよと言いました。  それは人形よねオモチャよねやめてよお願い冗談でしょやめてお願い人形だわ人形にんぎょうにんぎょう――  わたしは困ってしまいました。  妹は、わたしが頑張って半分コにしましたが、わたしのことは、ママに頼まなくてはいけません。今、手に持っている「ママのぶんの妹」は、赤いリボンをつけています。だからわたしは、ピンクのほうがママのぶんです。  そう説明しても、ママはうずくまり、耳をふさいで震えあがるだけで、ちっとも聞いてくれません。  わたしはふと、思いつきました。  ああ、そうだ。こっちを分けるという手があったわ。  土下座しているような、ママの格好。わたしは斧をふりかぶり、ママの真ん中に落としました。  半分の妹を、半分になった妹のもとへ、わたしは持っていきました。もとあったように、横に並べてくっつけておきます。これで、妹は元通り。もとの「ひとつ」になりました。  その横へ、半分になったママを並べました。  もう半分は、わたしのものです。  時計を見ると、短い針が9のところにありました。いつもより、ちょっと遅い気がします。  そろそろ帰ってきてくれないと、わたし、おやすみの時間になっちゃうよ。 「ふぁ……」  あくびを、ひとつ。重たい斧を胸に抱いて、玄関に座り込み、半分コにしたママといっしょに、わたしはパパを待っています。  はやく帰ってきてね。だいすきなパパ。
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