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「ねっ、マカ。すっごく綺麗な人形でしょう?」
「えっええ、そうね。それ、どうしたの?」
「いただいたんです。友人から」
彼女は嬉しそうに、人形を見つめる。
「わたし、ずっと欲しかったので、すっごく嬉しかった」
うっとりと語る彼女の眼は、手元の人形に向いているものの、その心は別のところにある。
マカはギリッと歯を噛んだ後、笑みを浮かべた。
「人形、見せてくれてありがとう。リビングに戻りましょうよ。お土産にケーキ買ってきたの」
「あっ、そうだったんだ! 一緒に食べよう?」
「わぁ、嬉しいです。ケーキ、大好きなので」
彼女は人形をベッドサイドのテーブルに置くと、普通の笑みを浮かべた。
「じゃあお礼に美味しい紅茶を淹れます。わたし、紅茶を淹れるの得意なんです」
そして三人は部屋を出た。
その後、リビングではたわいのない話で盛り上がり、夕方になって二人は洋館を出た。
洋館を出た後、ミナを先に行かせ、マカは改めて彼女と向き合った。
「さっきのアンティークドールのことなんだけど…」
「ああ、制作中のですか?」
「―誤魔化すな」
マカの両目が赤く染まり、低い声を聞いても、彼女の笑みは崩れなかった。
「お前が寝室に飾っていたあの人形のことだ。アレはリリスにもらったな?」
「よくお分かりになりましたね」
彼女は口元に手をやり、くすくすと笑った。
「お前…あの人形だな?」
「ええ、そうです」
あっさりと肯定したことに、マカの眼がつり上がる。
「言っておきますが、コレは契約だったのです。彼女はわたしになりたくて、わたしは彼女になりたかった。お互い、合意の上での取り引きだったんです」
「ほざけ。今の状況を、彼女が納得していると思っているのか?」
「しているんじゃないですか? だって彼女自身の望みだったんですもの」
彼女のふてぶてしい態度に、マカは更に何か言おうとした。
しかし何度か口を開閉した後、深く息を吐いた。
「…まっ、今となっては全て遅いことか。しかし…」
改めて赤い両目で彼女を睨み付ける。
「貴様ら、同類を増やす為に動きそうだな。今のうちに狩っておくか?」
そう言ったマカの腕に、黒き模様が浮かぶ。
「―止めた方が良いと思いますよ? まだ人の眼がありますし、ミナ先輩も待っていますよ?」
ミナという言葉に、マカの眼の光が揺らぐ。
「…まあ自分で自分のことをフォローするつもりはありませんが、あえて派手に動くことはしません。あくまでも望む相手がいないと、我々とて動けないんですよ」
「ほう…。なら望む相手がいるのならば、活動的になると言うわけか」
「活発的にはなりませんよ。何せ我々には時間が必要ですから」
彼女は肩を竦め、困惑の表情を浮かべる。
「―それが我々と、創造主の契約なんです」
「リリスとか…。どんな契約内容なんだ?」
「それは直接ご本人にお尋ねください。きっと彼女はあなたが相手ならば、答えてくれるでしょう」
マカはしばし考えた後、模様を消した。
そして眼を閉じ、赤い色を引かせた。
「…だな。それじゃあ今日はここまでにしておこう」
「はい、お気を付けてお帰りください」
彼女は頭を下げ、マカを見送った。
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