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もう一つの人形
「…ではお前だけが例外だったんだな、マリー」
「ええ…。アタシは元々普通の人形として作られたの。でも製作者があまりに強い魔力を持っていたから、完成と同時に魂と魔力を持ったんだけど…多分、そのせいでしょうね」
ソウマの経営する店で、マカとマリーはテーブルをはさんで向かい合っていた。
2人の真剣な様子に、ソウマとハズミ、マミヤは店の奥に移動していた。
「アタシの体は死体などは一切使われてはいない。けれどアタシのような存在が生まれたからこそ、リリスは…」
そこまで言って、マリーは両手で自分の顔を覆ってしまった。
マリーは1000年前、リリスの先祖から作られたアンティークドールだった。
マリーのような存在があったからこそ、リリスはあの人形を作るようになったのだろう。
「『マスク・ドール』の一件と言い…リリスの一族は人形作りに対して、かなりの執念を燃やしているな」
「そうね…。最初はこんなんじゃなかったのに…」
マカは彼女のことをマリーに話した。
マリーは魔力と術によって、人形から人間へと姿を変える。
そこはあの人形とは違っていたものの、どこか共通するのは製作者のせいだろう。
魔女の一族の異変の原因、それはマカの血族と同じ理由だった。
「どちらも存亡の危機と言うが、あくまでもそれは力のみのことを言っているな。子孫はそれでも生き残っているだろうに…」
「ただの人間ならば、それで満足できたでしょう。でも…あなた達やリリスはそうはいかないでしょう?」
顔を上げたマリーの眼元は、涙で潤んでいた。
マカは険しい表情をしたまま、頭をかいた。
「だからと言って、私を持ち上げたところで何になるワケでもあるまいに…。目先のことにこだわり過ぎて、ろくなことをしていないな」
「そうね。普通に生きている人間達を犠牲にしてまで、力にこだわる必要はまずないわよね」
マリーはそう思ったからこそ、魔女達から遠ざかったのだろう。
マカは眉を寄せながら、深く息を吐いた。
「まっ、リリスも言っていたが、所詮はその場しのぎだ。あまり上手くはいかないだろうな」
「…でしょうね。いくら魔力があるとは言え、肉体と魂の拒絶反応が全くないとは言えないでしょうから」
今回はあくまでも運が良かっただけのこと。
魔力があっても、魂の入れ物が拒絶反応を起こす確率はかなり高いだろう。
下手すれば、二つの魂は壊れてしまうぐらいのハイリスクを背負う。
「…だがそんな危険をおかしても、その後だって平和なわけではあるまい」
「マカの言う通りだと思うわ。どう足掻いたって、本当の肉体ではないんだもの。いずれ魂を受け入れた器は拒絶し出すでしょう」
顎に手を当て、マリーは少し考えた。
「その拒絶反応を抑える為に、禁術に手を出すことになりそうだけど…」
「まっ、それも分かっていたことだろう。…それでもあの魔女は、人形になっていたんだろうからな」
同族達に利用されていることを分かりつつ、彼女は人形になることを望んだ。
そして自分の生を醜く続けることを選んだのだ。
「輪廻転生から外れた生は、ただならぬ苦しみを生む。それを覚悟で受け入れているモノは、強い意志を持っているとも言えなくはないがな。…まあ感心はせんが」
眼を細め、マカは窓の外に視線を向けた。
「そう、ね。苦しみを分かりつつ生きているのならば、精神力は強いでしょうね」
マリーも遠い眼をしながら、窓の外を見た。
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