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ちさっちの愛を誓う姿もたくさんの笑顔も見てないけど、……話聞いただけでまた好きになりそうだった。
けどね、それって社長がいないと見れないんでしょ。
仕事をカッコよくこなしてるちさっちも、半分は社長に尽くしてそうなってるんだろうから、だから社長を愛してるちさっちが、俺は好き。
「ねぇ、俺社長の手ずっと握ってるんだけど、やきもち焼かないの?」
ちさっちにそう声かけたら、そっけない顔で俺を見た。
「それよりも、社長と呼んでいるほうが気になる」
社長って呼べって言ったの、ちさっちなんだけど?
「親密度上がったら社長になったんだよね」
「言っていることが違うだろ」
ちさっちはコーヒー片手に席につき、長い脚を組んでパソコンを立ち上げる。
反応なくてつまらないから、社長の手を離して俺も席についた。
俺に名刺頼んだこととか仕事のこと話す社長に、返事するちさっちはいつも通り敬語で、全然浮かれた様子がない。
それもなんだかつまらなくて、社長が出かけてから俺は、仕事をするちさっちをじっと見た。
ちさっちは俺のとこチラッと見て、すぐ元に戻って、でも仕事の手を止める。
しばらくして椅子を回してこっちを向いて、深刻な顔で言った。
「あのな。社長のこと、一生恩に着る」
「そこまで? 重いよ?! 俺、社長に言いたいこと好き勝手言っただけだしね?」
俺にまで一生とか言わなくていいし!
ちょっとおもしろいよ?
でもそのくらいちさっちにとって嬉しいこと、俺したのかなって思うと、なんだかとても、気分がいい。
ちさっちの視線が俺からパソコンのモニターに移る。
席を立ってこっち来て、まじまじとモニターを見た。
「これ、俺が来てから作り始めたんだよな?」
「そうだけど。もう一個あるよ」
並べてふたつ、見てもらう。
ちさっちと社長が話してる間に作ったもの、途中まで作った名刺の案がふたつ。
「早いし、いいな、色とバランス。俺はこういうのは、あまり作らない」
感謝された上にほめられるなんて、うっかりニヤけちゃうじゃないか。
「あんまり優しいと気持ち悪いよちさっち。俺、どっちかって言うとMだからね」
ちさっちは冷ややかな目で俺を見る。
でもすぐに苦笑するように鼻で笑って、席に戻っていった。
わざと怖い顔してくれた、だから全然怖くない。
ほんの少し前だよ。
好きだって気持ちを外野に否定されて、持てない気持ちを強要されて、大好きなのに恋人と別れたの。
落ち込んでたけど、一番楽しく過ごしてたころの先生に拾ってもらえて、元気出たんだよね。
大好きな人に拒否された人、大好きな人を拒否した人、それでもお互いが大好きで、想いが通じたコト、俺もとても嬉しくて、もっと心が元気になった。
お互いに夢中だろうに、俺のこともちゃんと見てくれるとか、俺も二人が大好きだから。
自分を認めてくれる人たちの中で仕事ができるなんて、俺も絶対幸せだよね。
こんなふうに社員全員が幸せな会社って、そうそうないと思うんだ。
了
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