22人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
七
次の週明け。
鍵開け当番で一番に出勤すると、次に事務所に着いた先生は俺を見るなり超ニコニコした。
「おはようあのね、千坂くんが僕に敬語使わないで話してくれたんだよ!」
「それ、一番最初に報告することかな?」
まぁ、一大事ではあるよね。
先生は週末に息子さんを実家に頼んで、ちさっちとゆっくり話をしたそうだ。
ちさっちは先生と一緒なら一生幸せだって、先生と息子さんを一生支えるって、迷いなく言ったんだって。
ちさっちならそれできそうって思ってたけど、実際そう言えるのって、すごいね。
先生も一度は拒否したけどもう迷わないって約束して、自分も一生支えるって言ったって。
そして、予想通りちさっちは、未経験者だったそうな。
優良物件だと思うんだけど、よく今まで誰にも手をつけられなかったよね。
あとは先生、ちさっちが何度も笑ってくれたとかSっ気があったとかその時だけ敬語じゃなかったとか……、のろけてきた。
Sっ気あるのは最初からわかるよね、て言うかドSにしか見えないけどね。
社長と社員がこういう会話してる会社ってそうそうないと思うよって言ったら、先生は我に帰って『仕事しよう仕事』と、プリントを持って俺の席に来た。
「名刺なんだけど、千坂くんかわいい系苦手でね。今まで勉強でなんとかしてきたんだけど、納得いくまで結構時間かけちゃうんだよ。五嶋くん得意だから、ちょっと作ってみて下さい」
わー! こういうの、俺にもやらせてもらえるの?!
「承知しました社長! 面接とかなかったけど、もしかしてちゃんと俺のトコ見て雇ってくれたの?」
ちさっちとのあいだに壁を作るために、手ごろな無職を雇ったんじゃないんだ。
「学校で二年間、五嶋くんの態度と作品は見てきたからね。欲しかったオペレーターの経験もあったし、僕と千坂くんの足りない部分をおぎなうことも見込んで来てもらったんだよ」
「嬉しいです! ありがとうございます!」
立ち上がり社長に握手して感謝を述べてるところに、怖い顔をしたちさっちが出社してきた。
社長を見て、少し表情をゆるませる。
「おはようございます」
あとは普段と変わらない様子で、鞄を置いてコーヒーをいれにいった。
最初のコメントを投稿しよう!