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無事に湧いた湯でみんなと珈琲を飲みながらのどかは言った。
「なんで、さっき、キライから始めたんですか? 社長」
「いや、俺は恐ろしいものや嫌なものを後に残しとくのが嫌なんだ」
まあ、ちょっとわかる気はしますが。
花びらを引きちぎりながら、いきなり、キライとか言われると、私の方がどきりとしてしまうんですが……。
みんな、八神が何処からか拾ってきた丸太に腰掛けて飲んでいたのだが、綾太が、
「お前、なんで、そんなに自信がないんだ。
いっそ、腹立ってくるぞ、ラブラブなのに」
と貴弘に文句をつけ始める。
「俺は――
女を好きになったのは、のどかが初めてな気がするんだ」
そう語り出した貴弘に、
うーむ。
言いたいことはわかるのだが。
その言い方だと、男はある、みたいに聞こえてしまうんだが……、
と思いながらも、せっかく貴弘が語ってくれているので、のどかは黙って聞いていた。
「初恋は叶わないって言うのに、おかしいじゃないか。
全部夢なんじゃないかってときどき思ってな」
と言う貴弘に、
いや、違う理由により、私はときどき夢なんじゃないかって思いますけどね、とのどかは思う。
生きてそこに居る泰親とか。
まだ降ってくる呪いのイケメン部屋とか――。
でも、確かに。
そんなあやかし絡みの怪異の数々よりも。
社長とあの日、バーで出会ったことと。
こうして二人で一緒に居られることが、一番奇跡的で、信じられないことのような気はしている。
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