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猫に乗られたまま、すっかり夏の雑草まみれになった庭を見て、のどかが溜息をつくと、
「なんだ。
まだ迷ってるのか? のどか」
と後ろから声がした。
ふわふわのホコリ取りを持った泰親が立っている。
最近は占いをするとき以外は、Tシャツなどのラフな格好がほとんどだ。
猫耳、もう生えてこないのかな、と泰親の、身長に対してずいぶん小さな頭を見ながら、のどかは言った。
「いやあ、ギリシャのサントリーニ島にあるみたいな、真っ青な海の前の、目の覚めるような白い教会とかで式を挙げたかったんですけどね。
でも、やっぱり、此処がいいかなあと思って」
と飯塚のおかげで、素敵な古民家となったあばら屋敷を眺める。
「……でも、此処でドレスはおかしいですよね」
とのどかは呟いたが、泰親は、
「着たいものを着たらいいじゃないか。
おかしければ、みんな、笑うだけだ」
と言う。
いやいやいや、泰親さんっ、と思ったが。
やりたいようにやればいいと思ってくれているのは伝わってきた。
「でも、やっぱり、泰親さんに式挙げてもらいたいかなって思うんです。
ただ、それだと、和装で神前式になりますよね?」
「のどか……、ありがとう。
その気持ちだけで嬉しいぞ」
と手を握ってきた泰親は、
「いや、待てよ、そうだ!
今から、お前のために牧師になってこようっ」
と言い出した。
「いやいや、泰親さん、そこまでは……」
とのどかは苦笑いして言ったが、泰親は、
「大丈夫だ、のどかっ。
どうせ、もう祝詞はかなり忘れてる!」
と笑顔で言ってくる。
……いや、貴方、どうやって呪いを封じ込めるつもりだったんですか、とのどかが思ったとき、隣の座敷との境辺りから声が聞こえてきた。
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