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「社長、ありがとうございます」
とのどかが店を見上げて言うと、
「いや、店が軌道に乗ったのは、お前の努力のおかげだろ」
と貴弘は言ってくる。
「いえ、そうではなくて。
……職を失ってやさぐれてた私の前に、降ってきたように現れてくださってありがとうございます。
イケメンの呪いとかで、引き寄せられたわけでもないのに」
とちょっと笑うと、
「俺には婚姻届の呪いがかかってるからな。
永遠に、消えない呪いだ……」
そう言って、貴弘は、そっと口づけてくる。
「のどかー、貴弘ーっ。
食べるんだろ、カップ麺!」
湯、湧いたぞっと綾太が叫んでくる。
「……絶妙のタイミングで呼んでくるな。
あいつら、絶対、こっち見てるだろ」
そう文句を言いながらも、貴弘は立ち上がった。
「行こう、のどか」
と手を差し出してくる。
はい、と微笑み、のどかは、そっとその手を取った。
雑草まみれの庭の中、ぼんやり光るホタルブクロの光を振り返り、のどかは言う。
「あ、今、ついでに式場を決める花占いもやればよかったですね」
「式場はお前の好きにしていいと言ったろ。
ゆっくり考えろ。
……でも、ずっと決めないのもいいな」
「えっ?」
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