第一部 生物実験室の彼女

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「”協調性を養う”ってやつでしょ。知らないけど」 「社会に出て、会社に入ったら、あんな煮詰まった学級会みたいな水掛け論、誰もしない。逆に、相手にされないと思う。私はそっちに備えたい。勉強して、本を読んで。今からつまんない意見に右ならえしてどうするの?」 「…………」 「……だから、別に。今、周りに染まらなくて、良いと思う。将来のために、ここにいるだけ。……いいんだ、体育だって、英会話だって、組む相手がいなきゃ、先生にマンツーマンで習える。同じ授業料で、ラッキー。……かわいくない一年、って、思ってるんでしょ、せんぱい」 「いや? かわいい」 「え……?」 「本当に。なんであなたと同学年の子には、このかわいさが伝わらないんだろうなぁ、って、思ってるくらい」 「………………」  悪ぶって肩をそびやかした彼女が、寛子の言葉で、毒気を抜かれたように黙り込む。 「ご不満?」 「……不満と言うか……一周回って、バカだと思われてるんだな、って、へこみそうになります。せんぱい、私、これでも一生懸命考えて、整理して、しゃべってるんですよ……」 「かわいい。好き」 「なんか、これじゃない感……」  寛子の方は最上級の肯定表現をしているつもりなのに、言えば言うほど、彼女はへこむのだった。  ――難しい。
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