第一部 生物実験室の彼女

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「まあ、付き合いたくない人たちと無理をすることは、ね。ほら、もう科学部入っちゃえば良いんじゃない?」 「入っても研究することないから、入りません。……ここに入り浸ってたことでも色々言われ始めたんで、入部なんてした日には……」 「どういうこと?」 「……踊り場でせんぱいに見られた時の、あの子たち、バスケ部で一緒のクラスメイトです」  彼女は溜息をついて、自分の置かれた状況を説明した。  入学まもなく入部したバスケット部で、似たり寄ったりの能力の新入生の中、長身の彼女を先輩方が目に見えてひいきしたことで、同学年の中で居場所がなくなっていったこと。  陰口や棘っぽい空気の中で、力が発揮できなくなり、いよいよ部活に出づらくなったこと。  図書室や教室にいては、いつクラスの子に出くわすともしれず、しかし家に帰れば母親に部活はどうしたと訊かれる。登下校中の寄り道は校則で禁止されている。窮した彼女が考えたのが、空いている特別教室で下校時間までやり過ごすことだった。 「どこで時間潰してたか、今日、バレたので。くさい、とか、きもい、変人の集まり、とか。……話に混ざってきたせんぱいを責めるつもりはありませんけど」 「なんでそんなこと言われるの?」 「蛙の解剖とかが趣味の人、みたいなイメージなんじゃないですか、科学部って。何やってるかわかんないし」 「うわー。偏見じゃない。ひどーい」  寛子が感情のこもらない声で、オーバーリアクション気味に言うと、彼女はまた、あの目をした。  ――せんぱいにはわからない。  本当に、そうだろうか。彼女に、そのことがわかるだろうか。
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