第一部 生物実験室の彼女

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「だって。……淡水魚のナントカカントカ……ってことは、ここの部屋のメダカと金魚ですか?」  だってじゃない、と思いながらも、自分のフィールドのことに興味を持たれるのは、賞よりも嬉しいことかもしれず、寛子は少し早口になりながら言った。 「めだかの方ね。金魚はせんぱいの代から惰性で飼ってるだけ。私のは、淡水魚を海水に適応させられないか、って実験だから、真水での飼育から、少しずつ濃度を上げていって、慣らして。どこまで海水に近い中で生きられるか、っていう」 「すごい。そんなことできるんですか?」 「海水魚は海水じゃないと、淡水魚は淡水じゃないと、生きられない、って思いがちだけど、河口付近の魚って、満潮干潮でそれぞれ塩分濃度が変わる環境の中でちゃんと生きてるわけだから、不可能ではない……筈だったけど」 「けど?」 「実験途中でいっぱい死んだよ」  生物実験室に入り浸る彼女をからかった一年生たちだったら、残酷、変人、と脊髄反射で笑ったり、気持ち悪がったりするところだろう。大量殺魚のサイコパス。研究の名目で、小さいもののいのちを奪ったのは事実だから、寛子に反論のしようもない。
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