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しかし彼女は、――特に科学に興味関心があるわけではないのは日頃の態度でわかっていたけれど、血相を変えるでもなく、ばかにするでもなく、寛子を責めもせず、淡々と言うだけだった。
「そっか……。きつかったんだろうな……」
「海水中で、卵から孵したことはまだないから。ある程度育ってから徐々に、変わっていく環境に、体を合わせなきゃならない。きついと思う」
「でもかっこいいですよ。どこでも生きられるって。生まれた場所を出たら死んじゃうより、ずっと良い。厳しい中で、脱落しなかった、強いめだか。めだかエリートだ。挑戦もしなかった、そんじょそこらのやつらとは違う」
「あー……自由意思を確認して放り込んだわけではないから、そう言われるとなんだか罪悪感が募るけれども……」
「この部屋のめだか、海に放したら生きていけるの?」
「どうかな。波があるから無理じゃない?」
「海を泳いでるめだか、見たいなぁ」
「小さいから、水面から目視は厳しいかと」
「もー! 否定的なことばっかり。せんぱいったら」
「あ、ごめん」
なんだか今日はやけに甘えて、優しくされたがっているなぁ、ということには勘づいていた寛子だったが、リップサービスとは絶望的に無縁なのだった。
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