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「どうにかしろって言ったのあなた」
「どうにもならないです、こんなのッ」
「まあいいから。すごくイヤだ、気持ち悪い、吐くって言うんなら今すぐ離れよう。どう?」
「……でも……」
戸惑ってはいるが、厭がってはいない。それを確認した上で、寛子は落ち着いた低い声で囁きかけてやる。
「長良ちゃん……涙止めたいんでしょ。試しにこのまま何度か深呼吸して、ごらん。ハグにはね、ストレスホルモンの血中濃度が下がって、代わりにオキシトシンが上昇するという効果があると言うよ」
そのままじっと待ってみた。ややして、彼女の背中に触れた掌が、肺に空気が多く入って膨らんだのを知らせてくる。
「……長良ちゃん。下の名前、何?」
「……一佳」
「そうか。一佳ちゃん。今日はよく、がんばりました」
背中を優しく撫で上げる。彼女の呼吸が落ち着くのを待って、寛子は上を向いた。濡れた頬を、掌で撫でてやる。
「スキンシップも、ハグと一緒で、良いんだって。ストレスに」
そう言うと、一佳は疲れ切ったような目を閉じ、うっとりと感触に浸るような顔になる。
「……落ち着く?」
「……はい」
寛子は、嘘はついていない。確かにそのようなことを本で読んだのだが、データを確かめたわけではないし、理詰めというには甘すぎるにもかかわらず、あっさり流される一佳がちょろすぎて、罪悪感にやきもきさせられた。
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