第一部 生物実験室の彼女

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 煽ると、燃える。一佳の顔が真っ赤に染まった。密着した体から、心臓の高鳴りが伝わってくる。  寛子の心臓も、やけに煩く、奔っている。  ――プライドがばかみたいに高いこの子が、わざわざ。  そう思うと、堪らなかった。どうしてこんな風になるのか、自分のことがわからない、そう思うけれど、塩辛い彼女の体液に触れた舌が痺れて、別の、あまいもので上書きされたがっているのが、わかって。  ――そういえば、別の本で、涙がフェロモンの動物の話を見なかったか。  自分を自分で追い詰めたことに薄々気付きながら、狂気の沙汰だな、と、寛子は思った。 「……キスしたい。あなたに。この気持ちがなんなのか……好奇心、を、抑えられない。足場をくれるか、あなたが協力してくれないと、この先はできないけど」 「……それは、ハグやスキンシップと同じ……ストレスホルモンに、効くんですか」 「実験しないと、なんとも言えない」 「……好奇心はあります」  彼女の方も、狂気の沙汰だった。 「顔、寄せて」  一佳は腰をかがめて、寛子の顔を至近距離から覗き込む。  そうして数センチの距離を踏み出した――好奇心は、いくつもの仮説と検証を乗り越えて、やがてひとつの結論を、導き出していく。 第一部 「生物実験室の彼女」 了
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