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煽ると、燃える。一佳の顔が真っ赤に染まった。密着した体から、心臓の高鳴りが伝わってくる。
寛子の心臓も、やけに煩く、奔っている。
――プライドがばかみたいに高いこの子が、わざわざ。
そう思うと、堪らなかった。どうしてこんな風になるのか、自分のことがわからない、そう思うけれど、塩辛い彼女の体液に触れた舌が痺れて、別の、あまいもので上書きされたがっているのが、わかって。
――そういえば、別の本で、涙がフェロモンの動物の話を見なかったか。
自分を自分で追い詰めたことに薄々気付きながら、狂気の沙汰だな、と、寛子は思った。
「……キスしたい。あなたに。この気持ちがなんなのか……好奇心、を、抑えられない。足場をくれるか、あなたが協力してくれないと、この先はできないけど」
「……それは、ハグやスキンシップと同じ……ストレスホルモンに、効くんですか」
「実験しないと、なんとも言えない」
「……好奇心はあります」
彼女の方も、狂気の沙汰だった。
「顔、寄せて」
一佳は腰をかがめて、寛子の顔を至近距離から覗き込む。
そうして数センチの距離を踏み出した――好奇心は、いくつもの仮説と検証を乗り越えて、やがてひとつの結論を、導き出していく。
第一部 「生物実験室の彼女」 了
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