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「……えーと、久しぶり。一佳。元気?」
「はい、まあ、普通に」
きれいになって、と言いそうになった寛子は、すんでのところで堪えた。
――正月に会った親戚のおっさんじゃあるまいし。
しかし、社会に出て六年、過労死ラインすれすれの激務や理不尽ハラスメントにすっかり擦り切れ、誰からも特別に顧みられるということなく、自分の価値を信じられずにボロ雑巾を自嘲する寛子の目には、二歳下の一佳の若さが、眩しく映った。肌荒れもないし、表情も豊かではないけれど、ハリや精彩があるように思える。
――こっちは、失望されてないと、いいけど……。
ヘアサロンにも、服のバーゲンにも、デパコス売り場にも、この頃まったく足を運べていない。久しぶりに知り合いに会うかもしれない場所に出かけるにあたっても、まったく気力がわかず、三年前に買ったワンピースで来てしまった。
俯き加減になった途端、パンプスに入った小さな擦り傷が目に入る。目をそらしたいのに、離すことができない。
――会うとわかっていたら、もう少しマシな恰好で来たのに。
トリートメントが足りないパサパサの髪を片耳にかけながら、寛子は思い悩みを振り切るように、笑顔を作った。
「一佳、こういうの来るんだねー。ちょっと意外だけど、大学もこっちだったし……、就職も、地元で?」
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