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「いえ、今日は東京から。実家がハガキを転送してくれたので、帰省がてら」
「わざわざ来たの? 大変だね! 同級生の子と約束でも?」
「いえ、あまり知っている子はいないみたいで……」
「そうだよね……こっちもそう。みんなどこで何してるんだろ」
寛子は今、地元の実家住まいなので、ちょっと出かける、くらいのノリで来ることができたのだが、わざわざ時間もお金もかけて、一佳がこの手の催しに来るとは、昔なら考えられなかったことだと思う。
大人になって、変わったのか。学生時代を懐かしむ里心でもついたとか――恩師に感謝を伝えたい気分にでもなったとか――色々仮定で考えてはみるけれど、元々内面の回路がわかりづらい子だ。変化のありようも、通り一遍ではないのかもしれない。
「へえー……そう、東京かぁ……。どの辺、住んでるの?」
一佳が友達同伴なら、そちらに注意を向けようと思ったのだが、その寛子の目論見は失敗に終わりそうだった。
数年のブランクは、ぎくしゃくと、会話の歯車を軋ませる。
それでも、辛抱して話を回しているうちに、
――そうそう、相槌はこのテンポで来るんだったな、彼女。
ということが懐かしさとともに思い出せて、あまり時間を必要とせずに、さしさわりのない話題を振れるようになっていった。
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