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学生時代、寛子と一佳は、仲が良かった。一般的に言われる、「仲の良い先輩・後輩」からは逸脱するように、成り行き任せで唇も合わせたし、素肌も合わせた。
「常識」に縛られず、二人ならどこまで行けるのか、を、試すような関係だったと思う。
大人の理性でもって人に説明するなら、「思春期の好奇心の暴走」とでも言えば良いだろうか。一言、「黒歴史」と言えば済むのかもしれない。
それくらい、暴力的で、盲目的で、恐れを知らず、破滅的だった。
同性同士の恋がいけないことだとは、当時、何を参照してもはっきりそこに書いてあって、「常識」だったけれど、ただ頭の固い大人に内緒にしていれば良いと、その程度の認識だった。
問題は、女同士だからというようなことではなく、当時の自分たちの幼さだった――と、今の寛子は、思う。
その制御されていない、思春期の自己愛まみれのコミュニケーション自体に、「若さ」だけでは許容しえない恥ずかしさと苦さがまぶされていて、思い出すと頭を抱えたくなる。
まだ彼女と出会った時、寛子は人間十五年目やそこらのお嬢さんだったのだから、仕方ないと言えばそうなのだが、とにかく未熟に過ぎた。
ふたりの関係性が、二人きりで長くいるうちに純度を高め、凝縮され、煮詰まり切って、ひとつばかりの臭みに辟易するようになった頃――大学でのサラッとした人間関係を知り、幼さと逆ベクトルの魅力に惹かれ、「早く、あちらに行かなければ」と何かに強くうながされるような心地で、気持ちを移した。
という薄情きわまりない心の揺れを含んだ経緯を、大人の理性でもって人に説明するなら、「大学進学とともに、なんとなく自然消滅した」ということになる。
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