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寛子は生まれ育った地方都市を出て京都の私大に進学したので、物理的距離が、なんの愁嘆場も作らず、四年近い付き合いを断ち切ってのけた。
あっさりと、寛子は一佳を失った。しばらくはメールや手紙のやり取りが続いたが、それがくれる刺激は実際に会って話すことに比べれば何百倍も希釈されたものだったから、いつの間にか、どちらともなく立ち消えになっていた。
それでも、大学生・新社会人といった新しい環境で、新しく人と出会うのはそれなりに刺激的だったので、未練はないように思われた。長い間、きっと、平気だった。ただ、次第に環境に慣れ、そこでの人とのやり取りに息苦しさを覚え、倦み、耐えている時、ふと、彼女と一緒にいた時の空気――水を、懐かしく思うのだった。
空気が良い、水が合う、ということ。
それはあまりに体に馴染むので、渦中にある時、恩恵をはっきり意識することはない。
まして、それは選び競争した上で勝ち取ったわけではなく、当たり前に、親に与えられた環境として、そこにあったものだった。
同じ学校に通いながら、寛子と一佳は、なんとなく居心地が良さそうな場所として、同じ生物実験室を選んだだけあって、休日に出かけたいような場所も似通っていた。地方都市ゆえの、選択肢の狭さというものはあるが、ともかくなにかと距離を縮めやすい同級生たちを差し置いて、毎週末、誘い合って出かける仲になるまで、時間はかからなかった。
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