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「交換しませんか。チケット」
「チケット?」
寛子は首を傾げる。少し考えてから、財布を取り出し、札入れに入れていたバスのチケットを差し出した。
すかさず、一佳もパンツのポケットから、小さなオレンジ色の切符を取り出す。
東京という文字と、運賃だけが大きく書かれていて、それは当然、JRの切符。――なのだろうけど。
その切符でどこまで行けるものか、田舎者の寛子にはわかりようがなかった。
「はい。乗り換え」
一佳はくい、と、指に挟んだ切符を動かして、取れ、と合図する。
仕方なく、寛子が左手を出して受け取ると、代わりのようにバスのチケットを引っこ抜かれた。
「これは私が、もらいますから」
「一佳……」
「幸せになって良いんですよ。せんぱいは」
――なれるのだろうか。
自己責任の挙句で、今、こうなっているだけなのに?
きゅ、っと締まった心臓の痛みに、寛子は俯く。
何に怯えているのかも、もうよくわからない。多分、なにかを奪われてしまったのだ。それで、もうなにかよくわからない弱さにずっと、卑屈でしかいられなくなっている。
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