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side A
僕があんまりオドオドしているものだから、見かねた三崎君が練習してくれる事になった。頼んでもいないのに。
「だいたいお前は人と話す時にすぐ下を向くのが駄目だ。人と話す時はその人の目を見ろ」
「う、うん…」
僕はさっそく俯いて答える。
放課後の教室にはもう僕たち以外に誰もいなくて、同じ高校1年のはずなのにもうすっかり大人として完成してますみたいな三崎君に見下ろされている僕は、なんだか居残りで先生に叱られている小学生みたいだと思った。
「ほら、それだよそれ」
三崎君は僕の両肩を掴んで屈み、俯いた僕の顔を覗き込む。
さっきまで見上げていた三崎君の顔が見下ろす位置に現れたのにびっくりして、僕はまた顔を背けてしまう。
「ちゃんと俺の目を見ろって!」
さっきより大きな声で言われて、怒られたと反射的にビクッとする。
「ご、ごめんなさい…」
思わずぎゅっと目を閉じて謝った。
掴まれている肩がじんじんと熱い。その熱がじわじわと肩から首へ、上腕へと広がっていく。
「いや…別に怒ってんじゃねーんだからさ」
肩を掴んでいた力が緩み、肩から二の腕にかけて上下に撫でられる。
「そんな怖がんないでよ。今年一年間、俺とお前とでクラス委員なんだからさ、どうせなら仲良くやろ、な」
小さな子どもに言い聞かせるようなその口調と、撫でてくる指先が思いのほか優しくて、強張っていた肩の力が抜けていく。
ゆっくりと目を開けると、額が触れそうなくらい近くに三崎君の顔があって、うわ!と慌てて後ずさった。
近い!近いよ!!
僕がバランスを崩したと思ったのか、三崎君は
「おっと、大丈夫か?」
少し驚いたような顔で撫でていた僕の二の腕を痛いくらいに強く掴んだ。
こんなに至近距離で他人の顔を見た事なんて今までにない。下睫毛の生え際、半透明な白目を走る細い血管、虹彩のまだら模様、そういったものまでもがはっきりと見えた。
それは目に焼き付いて離れず、僕は物凄く照れくさくなってドキドキして、それから掴まれている腕の貧弱さが恥ずかしくなる。顔が熱い。
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