No.13  7月3日   親和感

1/1
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ

No.13  7月3日   親和感

 いつも行ってる美容室の店長さんから急に電話がきた。 「いつ退院すんの?連絡くらい寄越しなよ。」  まだ入院していない。  この店長さんは私の地元の2つ上の先輩で、中学の頃から可愛がってもらっている。  月1で美容室に通っているのに、ここ2ヶ月行ってないので心配してくれたようだ。  先輩と初めて言葉を交わしたのは中学の時。  私が友達と真夜中に真っ暗な商店街を話をしながらブラブラしていたら突然、男の集団が目の前に現れて、警察だと思った私達は全力で逃げた。  あっという間に追いつかれて一言 「こんな夜中に女の子だけでウロウロしてたら危ないじゃーん」 ひどくバカっぽい話し方のそれが先輩だった。  学校でカーストのトップを誇っていた先輩達は私達をジロジロ見て、学年や名前を聞き、あだ名を考え始めた。  私の友達は身長170cm弱でスタイルが良く、目がクリクリした可愛い子で、比べて私は身長140cm、ちんちくりんで目は一重の切れ長で目つき悪し。  友達はBETTY・BOOPのベティちゃん。  私といえば、その当時テレビアニメでやっていたネズミの名前をあだ名としてつけられ、以降から今までずっとそのあだ名で呼ばれている。  街中で先輩に会い、そのあだ名で呼ばれると先輩の連れや私の連れ等10人中10人が 「なんでそのあだ名なの?」 と聞く。当然だ。  その度に理由を一々説明するのは恥ずかしい。  なんせネズミだから。  だが、先輩はあだ名のきっかけについてはあまり覚えていない。やれ、中学から可愛がってやっただの妹みたいなもんだだの勝手なことを言う。  中学の時、サーファーだった先輩達が私を海に呼びつけ雑用を押しつけたり、高校では文化祭で私の名前を叫びながら訳もなく私を追いかけたり、可愛い子を紹介しろと迫ったりした事も覚えていないのだろう。  そんな先輩が美容師になったと聞いて、頼み事ついでにお店に遊びに行ったのが私が19歳の時。その時、先輩はただのスタッフだった。  そして私はお店が休みの日に丸一日かけてアフロにしてもらった。  その頃の私はブラックカルチャーに夢中で、洋服から車から肌の色、化粧に至るまで全てアフリカンアメリカそのものだった。  それから、アフロはブレイズからドレッド、またブレイズというように先輩の手で次々と変わっていった。  私が母親になり、先輩も独立して自分のお店を持った今は手入れの簡単な髪型にしてもらっているが、アシンメトリーツーブロックという複雑な構造の髪型な為、やはり先輩でないとできない。  私が結婚の報告をした時に 「妹が嫁に行く時ってこんな気分なんだな」 と泣いていたこと  私の出産の後に奥さんと一緒にプリンを買って子供の顔を見にきてくれたこと  友達との喧嘩の仲裁に入ってくれたこと  いつも体を心配してくれること  髪型を決める時、無理難題な要求に応えてくれること  いつも前向きな言葉をくれること  私の子供達を自分の子供のように可愛がってくれること  思えば感謝しかない。  「まだ入院してないから。」 というと、安堵のため息と共に 「入院する前に俺にちゃんと連絡しなね。」 と言ってくれる優しさがありがたい。  客商売だからなのか、父親になって丸くなったのか、昔とは違う話し方に少し笑う。  いつも気にかけてくれてありがとう と心の中で言いながら、はーいと返事をして電話を切った。  
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!