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「トランシルバニアでは、昼日中からドラキュラ伯爵が闊歩することはないのですけどね」
「アメリカのハリウッド映画のおかげで、欧州の妖怪の巣みたいな土地ってことになってるンですよ」
「なるほど」
「で、そのベッガー選手については、何か情報はないですか」
「どうかなあ・・我々も、トランシルバニアでジュウジツなんてあまり聞かない。西側の国のことだからってこともあるが・・黒海界隈の国の大会ならまだしも、国際大会に出るのは、そんなにないのじゃないかな」
「完全なダークホースですか」
「今、確認しましたが、トランシルバニアからの選手は、彼だけですよね」
「たぶんに、政治色が強いのかな・・おっと、これは、言っちゃいけないか」
そのときだった。
”タノモ~、タノモ~”
「日本語?」
練習会場の入り口に、その姿があった。
「なんだ、なんだ・・」
そこには、二人の白人男が立っていた。一人はやや太り気味の中年男。もう一人は、文字通りの巨漢だった。柔道着を身にまとっている。
「なんだ、あれは」
「あ、あれは」真っ先に、それに反応したのは東丈だった。
「兄貴、知り合い?」その言葉に卓が丈に問う。
「まあ、あのデカブツはしらないけど、となりの紳士は、トランシルバニアの駐日大使さんじゃないか」
「そうなの?」
「Mr,フレーですか、トランシルバニアの」丈が英語で声をかけた。
「おや、Mrアズマ、どうして、ここに」
「貴国に行く前のアルバイトです」
「なるほど」
「で、こちらの男性は?」
「オイゲン・ベッガー、わが国の誇るジュウジツの星じゃよ」
「こちらが、そうですか。それで、こちらには、何の用ですか?」
「こういうのを、なんていうのかな。日本語では、そうそう、”ドージョウヤブリ”だったな」
「え、道場破り?」
「それは、穏やかではありませんね」
「すまない・・トランシルバニアでは、まだまだジュウジツをやる人口が少なくてね・・ベッガーは練習相手に苦労しているんだ。むしろ、周辺国への遠征が練習になるような状態でね。せっかく、この大会に日本の選手が来てくれているなら、練習をさせてもらえないかと思ってね」
「そういうことですか」そういうと、東丈は、フレー大使の言葉を皆に伝えた。
「オネガイシマス」ベッガー選手が、たどたどしい日本語で言った。
「なるほど・・で、個人戦に・・うむ」
「どうします?」
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