王女様とサムライ

16/36
前へ
/36ページ
次へ
「トランシルバニアでは、昼日中からドラキュラ伯爵が闊歩することはないのですけどね」 「アメリカのハリウッド映画のおかげで、欧州の妖怪の巣みたいな土地ってことになってるンですよ」 「なるほど」 「で、そのベッガー選手については、何か情報はないですか」 「どうかなあ・・我々も、トランシルバニアでジュウジツなんてあまり聞かない。西側の国のことだからってこともあるが・・黒海界隈の国の大会ならまだしも、国際大会に出るのは、そんなにないのじゃないかな」 「完全なダークホースですか」 「今、確認しましたが、トランシルバニアからの選手は、彼だけですよね」 「たぶんに、政治色が強いのかな・・おっと、これは、言っちゃいけないか」  そのときだった。 ”タノモ~、タノモ~” 「日本語?」  練習会場の入り口に、その姿があった。 「なんだ、なんだ・・」  そこには、二人の白人男が立っていた。一人はやや太り気味の中年男。もう一人は、文字通りの巨漢だった。柔道着を身にまとっている。 「なんだ、あれは」 「あ、あれは」真っ先に、それに反応したのは東丈だった。 「兄貴、知り合い?」その言葉に卓が丈に問う。 「まあ、あのデカブツはしらないけど、となりの紳士は、トランシルバニアの駐日大使さんじゃないか」 「そうなの?」 「Mr,フレーですか、トランシルバニアの」丈が英語で声をかけた。 「おや、Mrアズマ、どうして、ここに」 「貴国に行く前のアルバイトです」 「なるほど」 「で、こちらの男性は?」 「オイゲン・ベッガー、わが国の誇るジュウジツの星じゃよ」 「こちらが、そうですか。それで、こちらには、何の用ですか?」 「こういうのを、なんていうのかな。日本語では、そうそう、”ドージョウヤブリ”だったな」 「え、道場破り?」 「それは、穏やかではありませんね」 「すまない・・トランシルバニアでは、まだまだジュウジツをやる人口が少なくてね・・ベッガーは練習相手に苦労しているんだ。むしろ、周辺国への遠征が練習になるような状態でね。せっかく、この大会に日本の選手が来てくれているなら、練習をさせてもらえないかと思ってね」 「そういうことですか」そういうと、東丈は、フレー大使の言葉を皆に伝えた。 「オネガイシマス」ベッガー選手が、たどたどしい日本語で言った。 「なるほど・・で、個人戦に・・うむ」 「どうします?」
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加