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「まあ、苦しい事情は、わからないでもないが、かといって、道場破りはなあ」
「いいじゃないですか、まあ、実際に試合で手合わせする先輩は、手の内を明かしたくないので、それはおいておくとして、組み手練習をするくらいなら、あくまで、指導ということで。確か、今回は試合もだけど、日本が参加国と仲良くすることが大事なんでしょ?」卓が言った。
「まあ、そうだけど、そろそろ、我々がここを使える時間も終わりに近づいているし」
「でも、聞けば、この選手、日本の”本物”の柔道を知らないみたいで」
「それなら、オレ、出ていいですか」そういったのは卓だった。
「俺、あくまでもリザーバですからね。この大会では、出番、なさそうなんで」
「そうだな。ほかにも、この選手と汗を流したい、リザーバいたら、お相手してやってくれてもいいぞ。もちろん、怪我のないようにしろよ」
「ロジャー。兄貴、今の話、説明してあげてよ」
「わかったよ、卓、ありがとうございます、団長」そういうと、丈はそれを英訳する。
それをさらにフレーがトランシルバニアの言葉に翻訳した。それを、長身のベッカーは体を折るようにして聞き入った。
「アりガトウゴザイマス」ベッカーが、正面を見て言った。
「じゃ、俺は相手だ、カモン」卓が、畳の上で立つ。
「ウム・・」
卓も巨漢だが、さすがにこのベッガーでは、頭ひとつ以上、低いといわざるを得ない。
一瞬、ベッガーは、彼とやるのか、という不満そうな顔をして見せた。といっても、二人とも、重量級なのだ。
「審判は、わたしがやる、いいね」
「おねがいします」
重量級の選手が買って出た。こうなると、ベッガーも否定しようがないわけで。
「独学の腕、見せてもらうよ」卓が流暢な英語で言った。
「はじめ!」
すすす・・だ!
卓は、組んで、すぐに、懐に飛び込んで投げに入った。
見た目以上に、卓はスピードが身上のなのだ。
「む・・」
しかし、ベッガーはそれに耐えた。
卓がちょっと、意外そうな顔をして見せた。
何かが、違うらしい。
ば、ば・・
足を払う。
しかし、ベッガーは、畳に根の生えたように動かない。
いかに巨漢でも、そうは耐えられないのが、柔道の道理なのに、だ。
ば・・
卓は、離れた。
距離をとって、乱れた柔道着を直す。
「ちょっと・・違ってますね」卓は言った。「面白い。これはトランシルバニア柔道ってことかな」
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