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小国とはいえ、古くからある王族の一員という歴史は、伊達ではない。
一応、日本の外務省の役人も来ているのだが、刺身のツマにもなっていない感じだ。
「ま、そういうことですから」
開会式、そして・・初戦開始。大会は順調に進んでいく。
二日目。そして、準決勝、決勝の三日目となった。
「卓の姉さんも美人だけど・・そういっちゃなんだが、ルーナ王女は、別格だねえ」貴賓席の彼女が、いやおうもなく目に入るのだ。
「だからって、負けたら承知せんぞ」
「負けたら、歩いて日本に帰れ、とか?」
「そうなるかもな」
「そんな、殺生な」
「なら、必死に勝て」
「ああ、俺、リザーバでよかった」
「なら、卓、お前出ろよ」
「いいんですか」
「ち、少しは遠慮しろよ」
「遠慮してたら、東家では、あのカッチン玉の兄貴にいいようにされちゃいますからね」
「なるほど、それは大変だ」
「うう、先輩~わかってもらえますか~~~」
「わかった、泣くな、泣くな」
まあ、1週間もあれば、本人がどんなにがんばっても、メッキははがれるというもので。一生懸命やってるのは認めるが、”あ、しまった”というのはどうしても出るわけで。
もっとも、会場にあのルーナ王女がいるのだからと思えば、取材に行きたいのを、必死に我慢しているというのが、丈の現状だったのだが。
姉の三千子は協会の幹部とともに、すでにルーナと挨拶をする機会を得たらしいが、下働きの丈は雑事込みで選手たちに張り付いていないとならない役回りのために、表敬訪問する機会は絶無だったのである。
学生時代に立ち上げた超常現象研究部も、自分が中心になって立ち上げたので、案外に下働きの苦労を知らないですんでしまったのである。
確かに、約束はこの大会の終わった後、トランシルバニアの首都にて・・という段取りになっていたのだから、それを期待して、会場で貴賓席に垣間見えるその美しい少女・・本当は東丈より一つか二つお姉さんなのだが、世界的に少女の感覚が抜けないように見えた・・の姿に、我慢するしかなかったのは、目の前ににんじんをぶら下げられた馬か、獲物を前にした猟犬の気分だったのである。
とにかく、見た目だけだが、その姿は、うわさで知るレベルを簡単に凌駕していた。
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