王女様とサムライ

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 噂に比して案外に本物は・・ということもないわけではないが、彼女はまったくその逆だった。  なんというか、あれで世界有数の超能力者だなんて、世の中、なんて不公平なんだ!というしかないだろう。  重量級個人の決勝戦は、案の定というべきか、あのベッガー選手が地元の選手を下して勝ちあがってきた。対する日本の大将も、けして小柄ではないのだが、ベッガーの巨体には、少々不利という印象をぬぐえない。  それでも、まだこの時代、日本生まれの競技として、まだ柔道に関しては世界にぬきんでたものがあったのである。”やはり、日本、強し”であった。スポーツ宮殿の観客も、日本の”強さ”に正直に圧倒され、また、その鮮やかな戦いぶりに敬意を示してくれるのだった。  その意味では、ウクライナの国威発揚というよりも、まさに国際交流の場としての世界大会だったとわりきっているのかもしれなかった。  風采が上がらないが、日本も含め、それなりの肩書きをもった来賓がそこには集まっており、東三千子は守秘義務ということもあり、そうしたテーブルの下の外交交渉の様子を眼耳にしても、明らかにはできないのだった。その意味では、三千子も柔道チームのピンチヒッター通訳であり、”本流”ではなかったのだ。  そして、その場に、あのルーナ王女も、偶然居合わせたように見せかけて、しっかりと”嵌っていた”のである。 ”いったい、どういうこと?”素人なりに、三千子も、それを考えてしまうが、それを誰かに口にすることはできないわけで。  結論だけを言うと、ベッガーは”技あり”を取られて敗北した。  ベッガーが王女の前ということもあり、明らかな一本勝ちをしたいという心の隙を持っていた・・  それを見透かされての競技者としての敗北だったといわざるを得ないだろう。  決勝の後の晩餐会も、来賓と選手中心のものであり、東丈たちスタッフは別室扱い。リザーバ選手の卓たちよりはっきりと格差もあった。それでも、スタッフはスタッフでささやかな祝勝会くらいは出来る。 「”お兄ちゃん”ご苦労さんでした」 「ども・・」  ウクライナ名物の赤ワインで乾杯。  選手の卓の兄貴ということで、いつの間にか”おにいちゃん”というのが、丈のあだ名となっていた。 「みんなも、ご苦労さん」  逆さに振っても誰も”役に立たない素人で申し訳ない”という殊勝なセリフを丈から聞こうとは思っていないのは助かった。  ”この役立たず”と罵倒される展開も考えられなくはなかっただろうが、このような外地にあって足手まといとなるような危険な状況に追い込まれることがなかったのは、幸いした。もっとも、”東”の国の中ということもあって、何か不都合があっても”東の国じゃしょうがないよな”という妙な諦めというか納得があったのも、丈に幸いしたのであった。
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