王女様とサムライ

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「明日から、お兄ちゃんは別行動なんだって」 「ええ、トランシルバニアでルーナ王女に取材をしてから、日本に戻ります」 「だったね」  これが”西”のどこかの都市だったら、このあと繁華街に繰り出そうかって展開になるのだが、こちらも勝手のわからぬ鉄のカーテンの向こうの国となれば、殊勝な禁欲生活を余儀なくされるわけで。  もっとも、丈のほうは、明日以後の展開に半分は魂が移動していた。  日本選手団も、明日の朝は早い食事の後、出立の予定。秀麗な聖堂などの市内観光をしている余裕はなかった。  キエフ空港で日本選手団とともに最寄のドイツの国際空港に入りを、選手団の日本帰還便を見送ってから、あらためてトランシルバニアの空港への、日に指折ってもあまるほどの航空便に乗り込んで首都に入る結構な長旅だった。しかし、これも取材のためだと思えば、苦でもなんでもない。  その朝のことだった。  日本選手団の朝食の場所に・・  あろうことか、トランシルバニアのルーナ王女たちが、姿を見せたのだ。 「素敵な試合を見せてくれて、ありがとう。聞けば、わが国の選手が、みなさんにご迷惑をおかけしたとか、そのお詫びに来ました」ベッガーとフレイ大使たちを従えた鮮やかな金髪の美少女は、そういって、小さく頭を下げた。 「いえ、どういたしまして・・わざわざ来ていただき申し訳ありません」 「・・あなたが、タク・アズマですね」 「・・はい」 「ジョウ・アズマの弟の?」 「ええ」 「大きいのね。ベッガーが失礼な申し出をしてしまったとか。ごめんなさい」  あらためて、この美女は少女に見えるのは、この土地の女性にしては、小柄だからだと気づく。ひとりで立っている限りは、その背の高さを感じることは、まず、ない。 「その、すまなかった。その、柔道の本場の人たちが来ていると聞いて、つい、ぶさほうなことをしてしまった」ベッガーもぶっきらぼうに詫びる。 「でも・・私も、あなたの試合も見てみたかったわ、タク」 「恐縮です」 「あなたのお姉さんのミチコもいると聞いたけれど」 「ええ、いますよ。姉さん、ルーナ王女に、挨拶を」 「はい、私が東三千子です」 「あなたが、あの”太陽の戦士”の翻訳をした方ですね」 「・・そうですが」 「あなたには詩心があるようですね。あなたの訳のうまさも、あったと今はわかります」 「恐縮です。実は、作者の弟もここにいるのですが」 「存じています、フレイから聞きました。それは、後ほど。みなさんも、お食事があるでしょうから」
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