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あれ、ここは。
気がつくと恭吾は公園の東屋に座っていた。
やっぱり夢だったのだろうかと首を捻って手をみつめた。不思議なのだが柔らかい手で握られた感触が残っている。現実とも思えない。わからない。
そういえば猫はどこにいったのだろう。膝上にいたはずのシマシマ猫はもういない。どこからか小鳥のさえずりがしてふと空を見上げたらすでに雨はやんでいた。
なぜだろう。モヤモヤしていたはずの心が少しだけ癒えている。
明日、部長にズバッと言ってやろうという気にもなっている。それで本当にうまくいくのかわからないけど、どこかで大丈夫な気もしていた。退職届も書いておこう。それを部長の机に叩きつけて胸の内を吐き出してやる。いや、自分にはそこまでできないか。退職届を出すだけでもいいみたいなこと口にしていたし……。それでいこう。
小説は……。
それは辞めてから考えよう。
辞めてからか。なんだろう、なんだかまた胸の奥がモヤモヤしてきた。
東屋から一歩出ると木漏れ日がキラリと光った。
あれ、あんなところに小さな社がある。知らなかった。近づいてみると社の両脇に傘をさした猫の石像があった。なにこれ。狛犬みたいなものだろうか。変わっている。何やら石碑も立っている。
『心の傘があなたを救う』と。
これって、もしかして。
さっきまで会っていた心寧という女性のことが頭に浮かんだ。あの店主はここの神社の神様だったのだろうか。そうだとしたら……。
恭吾は『がんばりますね』と心の中で伝えて神社をあとにした。
***
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