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「えー、こんにちは。金継ぎ教室へようこそ」
準備が整い生徒さんが揃って、教室が始まった。
今日の参加者は、十三人。そのうちの三名様がご新規さんだ。
「講師の牧です。初めましての方は、初めまして。それ以外の方は、勝手に続きをやっといて下さーい」
「はーい、勝手にやって、困ったら呼ぶわねー」
「お!石川さん、さすがベテラン!」
既に手袋をはめ終えた手を上げた女性を、先生が嬉しそうに指差す。
「先生。今日だけで良いので、真面目にやってください。初回の方が驚いてます」
「それ内緒話になってないよ、千都ちゃん!」
「え。……すみませんっ……」
さっきの女性ーー石川さんの向かいで、小麦粉を水で練っていた女性が笑う。
その声で、何年も通ってるおばさま……お姉さま方に笑われて、顔に血が上る。
業務連絡を近くでこそこそしたつもりでも、丸聞こえになってしまう事の方が多い……先生の背が、高すぎるせいだ。
「初回の皆さん、すいませんね。助手がぼーっとしてまして」
してないっ!……と、心の中でだけ突っ込む。
「初めましての方には、まず、自己紹介から……牧壮介です。大学で漆芸を専攻してました。卒業後漆芸家になりかけたんですが、友人に陶器関係の人間が多くて、気が付いたら金継ぎも生業になってました」
先生はそこで言葉を切った。新規のみなさんは少し緊張気味に、真剣に聞いてくれている。
「……職人なもんで、こんなデカい態度の講師の教室で恐縮ですが、一度壊れちまったものを自分の手で甦らせる楽しさを、少しでも味わって頂ければと思っています。宜しくお願いします」
「助手の、平取千都香です。皆さんのお手伝いをさせて頂きます。宜しくお願い致します」
「助手って言うか、駅前のビアホールでも仕事してますんで。ひとつご贔屓にどうぞ」
「先生っ!?」
それ、個人情報っ!! ……って、思うけど。 このお教室の飲み会とかが企画されるとウチのお店が選ばれるから、個人情報はどうせそのうち筒抜けだ。
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